約30年前の思い出・・・
話は1990年代初頭・・・約30年前にさかのぼります。某月某日、私は当時属していた専門誌編集部の同僚と昼飯を食べに近所へ出かけました。その途中、とあるビル屋上の看板を見た同僚は「あれ、あのマークって、戦前英国車の部品にも同じものがついていたよね?」と私に話かけてきました。
「ああ・・・マーシャンね。確かに見覚えあるけど、全く同じ意匠だったっけ?」。そもそも"マーシャン"とは、佐藤商事が社章としても使っているユニークなキャラクターです。1955年に佐藤商事は洋食器工場を設立し、以来カトラリーやキッチンウェアなどの「マーシャンブランド」オリジナル商品を製造・販売しています。皆様の中にも、マーシャンの意匠が刻まれたカトラリーをお持ちの方はいらっしゃるのではないでしょうか?
一方・・・私と彼の2人が見覚えのある、戦前の旧い英国車の部品についている"アレ"・・・というのは、こちらになります。
引っ込み思案な私に比べると"コミュ力"高めな同僚は、「よし! 佐藤商事の人に聞いてくる!」と看板のあるビル・・・佐藤商事の中へズンズン入って行きました。そして私は彼が戻ってくるのを、ボケーっと路上で待っていました。
しばらくして戻ってきた同僚は「受付のお姉さんに聞いたけど、すみません、わかりません、だって!」と私に告げました。まぁそういう結果になるだろうな・・・と思いましたが、彼の行動力に妙に感心したことを今も覚えています。
1960年に出願された"マーシャン"
"マーシャン"と"アレ"の関係・・・という上述の疑問は、ずいぶん長い間忘れたまま放っておいたのですが、ひょんなことから改めて調べてみようと思い立ってしまいました。
1930年、東京・茅場町にて佐藤ハガネ商店の商号で個人創業したのが、そもそもの佐藤商事のはじまりです。そして同社のトレードマークとなった"マーシャン"については、こちらの記事が詳しいです。
終戦直後の昭和21年1月に金属洋食器や雑貨商品のトレードマークとして、使用するために当時の社長が英国の会社の商標図案をヒントに作成したのです。その後、昭和33年に当時話題になった空想上の「火星人」に似ているということで、マーシャン(火星人)と命名し、社章として制定することになったのです。 2年後の昭和35年には特許庁に出願し、商標として確立されました。
(中略)理想に燃える生まれたての赤ん坊をイメージしています。赤ん坊の顔にしたのは、いつまでも赤心を忘れないためです。やっとの足で大地に踏ん張り、スパナの手を大きく広げているのは、金属商社であることを意味しています。大きな顔は啓蒙と想像あふれる精神のもと、誠意と責任ある会社を目指すことを意味し、頭の5本の毛は、人の和、仁義、礼、知、信を重んじる心を表すと同時に、世界の5大陸に向け進展するという理想を掲げたものです。
なるほど・・・昭和30年というと1960年・・・。当時の社長さんが見た「英国の会社の商標」が元ネタというわけですから、"アレ"は1960年以前から英国に存在していた会社のマークに違いなさそうです。
"アレ"の由来は・・・残念ながらわかりません!(すみません・・・)
ズバリ結論ですが、佐藤商事社長が当時見たのは、約30年前の私と彼が知っていた"アレ"・・・「ベスト&ロイド」のマークに違いないでしょう。論拠のひとつが、誰でも記述できて誰でも編集できるWikipediaってのがちょっとアレですが(苦笑)、状況証拠や時系列などから考えるにまず間違いないと思います。
第二次世界大戦終戦直後の1946年1月、当時の社長が金属製食器や雑貨商品のトレードマークとして用いるため、イギリスの会社の商標図案(オイルポンプ[3])に想を得て作成[4]。1958年には当時話題となっていた火星人に似ていることからマーシャンと名付けた。
上記Wikipedia引用のとおりベスト&ロイドはかつてオイルポンプを製造販売しており、英国をはじめとする多くの国の2輪・4輪メーカーにオイルポンプをサプライヤーとして供給していました。しかし同社の180年以上という長い歴史のなかで、オイルポンプメーカーだった時代はあくまで短期間でした。
そもそもベスト&ロイドは1840年、英国産業革命の中心地であるバーミンガムに設立された会社で、電気やガスの照明を製造・販売していました。そして19世紀末の自動車産業の興りとともに、ベスト&ロイドはオイルポンプやフューエルタップ、そしてウインカーなどの2輪・4輪用製品も手がけるようになります。
しかし1935年にベスト&ロイドは、自動車および航空事業を売却。その後は創業時からのビジネスである照明をビジネスの中心に据えて、現在もしっかり企業活動を続けております。
残念ながら、"マーシャン"の元ネタとなったベスト&ロイドのマークの意匠の意味・・・については、調査力不足ゆえわからずじまいでした。ユニークなベスト&ロイドの"アレ"は、今は同社では使われることはなくなってしまったようですが、バーミンガムから遠く離れた日本の地で、"アレ"の親戚的存在? である"マーシャン"がバリバリ活躍中なのは、ちょっと面白いですね。
日本人がベスト&ロイドの旧マークを見て「あ! マーシャンか!?」と思うように、英国の人は日本の地で"マーシャン"を見て「あ! ベスト&ロイドの"アレ"か!?」と思ったりするのでしょうか? この疑問については、また機会を改めて調べてみたいと思います?