サノス後の世界、トニー・スターク無き世界の描く
本作は、『アベンジャーズ/エンドゲーム』によって、一旦はサノスに敗れ、全人類(だけでなく、全宇宙の生命体)の50%か消滅させられたものの、アベンジャーズの活躍によって復活した世界を舞台にしている。
アイアンマンことトニー・スタークがサノスを倒す引き換えとして命を落とし、その遺志と遺産を誰が引き継ぐのか、誰がアイアンマンなき世界を守るスーパーヒーローになってくれるのかを全世界の関心事になっている。
同時に、世界に平和が訪れたものの、再び危機に陥るのではないか?という不安が人々の心から拭い去られることがない、そんな環境だ。
そんな中、次のアイアンマン候補として世界から最も期待されるスパイダーマン=ピーター・パーカーは、その重圧に耐えかねて普通の高校生としての気軽で楽しい生活を望んでいる。彼の最大の関心事は、同級生のシニカルでクールな美少女MJとステディな仲になること。
奥手のピーターではあるが、科学研究会のサークルの夏期休暇旅行でMJと共にヨーロッパに向かう機会に、何としても告白しようと目論むのであった。
ちなみに、サノスによって人類の50%が消滅させられ、トニー・スタークらアベンジャーズの活躍によって復活させられるまでに5年を要している。ピーターとMJは幸いにして?消滅させられたのちに復活した組だから同い年のままだが、今のクラスメートには、消滅を免れて気がつくとかつての5歳年下の者たちが 同い年になって混在するようになっている。
その結果、本当なら5歳も下の男の子たちがMJを狙うライバルになっているという現実にピーターは直面するのである。
(弟が自分より年上になっている、といったこともまま起きているw)
サノスの試みによる後遺症が微妙に影を落としながらも、その混乱を呑み込みながら復旧を果たしていく環境をコミカルに描き出しているのが、本作の「アベンジャーズ以降」の世界観を作り上げてうまく修復していくという役目であるとも言えるだろう。
否応なく謎の敵と対峙させられるピーターに、若干同情。
本作では、ヨーロッパを舞台に、突如現れた謎の敵との戦いに身を投じるスパイダーマンの活躍を描く。
味方と思われた新たなスーパーヒーローが、実は最悪の敵であったり、自らも5年のタイムラグの影響に晒されて若干現実にアジャストできていない(アベンジャーズの召集者である)ニック・フューリーの混乱など、これまでのアベンジャーズシリーズにないどんでん返しは、実に楽しい。
サム・ライミ監督によるトビー・マグワイア版スパイダーマンは、いかにして正しいヒーローであろうかと哲学的に思い悩む苦悩大き葛藤型の青年の話だったが、トム・ホランドのピーターはあくまで陽気で前向き、その悩みさえ分かりやすく高校生らしい。
その明るさを楽しみ、進化する一方のアクションやCGを堪能しながら、時に歓声あげ拍手する。そんなアメリカンな鑑賞スタイルがとてもよくにあう最高のエンターテイメントだ。