年間100本の映画作品を鑑賞する筆者の、100分の1の映画評。今回は6年連続受賞してきたディズニー作品を抑え、第91回アカデミー賞 長編アニメーション映画賞に輝いた『スパイダーマン:スパイダーバース』。日本国内では2019年3月8日から全国で公開されるが、一足先に試写会に行ってきた。

ピーター・パーカーのいない?世界に集結したマルチバースのスパイダーマンたちの活躍

複数の次元(マルチバース)から集結したスパイダーマンたちが、歪んだ時空を元に戻すため、活躍する長篇アニメーション。

Netflix『デアデビル』シリーズでも人気を博したヴィラン、ウィルソン・フィスクことキングピンが、スパイダーマンたちの前に立ち塞がる巨大な悪として登場する。

年齢や性別、人種までも異なる各ユニバースのスパイダーマンたちが結束してキングピンの野望を挫くため、激しい戦いを繰り広げる、爽快なアクションムービーだが、基本的には主人公は13歳の黒人少年マイルス・モラレス。『ブラックパンサー』から始まった、スーパーヒーロー映画におけるブラックパワーの台頭を強く感じさせる系譜を継承する一作だと言えるだろう。
軽快かつ刺激的なHipHopやR&Bミュージックもまた、そうした”今”の気分を巧みに盛り上げてくれる。

画像: 映画『スパイダーマン:スパイダーバース』本編映像<スパイダーマンは1人じゃない編>(3/1〜3/3 IMAX先行上映決定、3/8全国公開) youtu.be

映画『スパイダーマン:スパイダーバース』本編映像<スパイダーマンは1人じゃない編>(3/1〜3/3 IMAX先行上映決定、3/8全国公開)

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マルチバースから終結したスパイダーマンたちの前に立ちふさがる、実に魅力的なヴィラン、キングピン

マーベル随一の人気者と言えるのがスパイダーマン。
スパイダーマンといえばピーター・パーカー、となるのだが、本作では『デアデビル』でも闇の社会に君臨する巨大悪キングピンことウィルソン・フィスクが行った、時空を歪ませる巨大な実験によって命を落とすことになるピーターに代わって、未熟だが正義感の強い一人の黒人少年マイルスがスパイダーマンとして立ち上がる。つまり、ピーター・パーカーではないスパイダーマンが活躍する新しいスパイダーマン映画が本作の特徴なのだ。

同時に、スパイダーマンだけでなくデアデビルの宿敵としても有名なヴィラン、キングピンがフィーチャーされているのも本作の見所と言える。
キングピン(本名ウィルソン・フィスク)はただの人間なのだが、肥大漢のようにみえるが実際には体脂肪2%という超筋肉質な巨躯によって凄まじいまでの怪力を誇る。しかも悪魔のように頭が切れ、暴力と智謀と悪徳によって多くのギャング組織を配下に収めた、並並ならぬ相手である。

血も涙もない、しかも激昂するとその怪力を振るって部下であってもあっさり殺害してしまう暴虐性を持ちながら、愛する妻ヴァネッサに対してはまるで情熱的な詩人のようにロマンティックな、ただの恋する男として振る舞うという、矛盾する性向を併せ持つ、複雑で魅力的なキャラだ。

前述したようにこのキングピンはNetflixで人気を博した『デアデビル』にも登場し、ヴィンセント・ドノフォリオの好演もあって、実にユニークでリアルなヴィランぶりを観る者に印象付けている。
本作におけるキングピンは、このヴィンセント・ドノフォリオ版のキングピンにかなりイメージが重なるので、Netflixドラマでの『デアデビル』で初めてキングピンを知った者にも全く違和感はないだろうと思う。

冒頭に書いたように、本作はディズニー作品の7連覇を見事に阻み、第91回アカデミー賞長編アニメーション賞を受賞した。その賞に見合うだけの充実した内容と、素晴らしい表現力を持つ傑作だ。スパイダーマンファンなら必ず、そうでなくても一人の少年が周囲の大人達の薫陶を受けつつ、一瞬で青年へと成長する姿を目撃することで、なんとも清々しい感動を得られるはずだ。

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