対するのは 2018年8月にWBO世界ライト級王座を奪取したホセ・ペドラサ。つまり今回の戦いは、WBA・WBO世界ライト級の統一戦。
ハイテクvsスナイパー
ハイテクと称されるほど、完成されたテクニックを誇るロマチェンコは、一発一発の破壊力はそれほどでもないが、右へ左へと小刻みに動きながら決して相手の正面に立たず、相手が見えない角度から正確なパンチを繰り出す。いいように打たれて、相手ボクサーはやがて心が折れてしまうのだ。
ロマチェンコの心配材料としては、右肩手術の影響で精密機械ばりのテクニックや体捌きから緻密さが失われてないかどうかだが、基本的にはロマチェンコがペドラサを完封するだろうというのが大方の見方ではある。
対するペドラサは長いリーチ(身長173cmに対してなんと180cm)を生かした攻撃が特徴で、スナイパーという異名を持つ。とはいえKO率そのものはロマチェンコの方が高く、下馬評でもロマチェンコ有利だ。ペドラサとしては体格に勝ることをフル活用していくほかないかもしれない。
ペドラサは右利きではあるが、しばしばスイッチしてサウスポースタイルで戦える器用さを持つうえ、リーチでは14cmもロマチェンコを上回るだけに、距離を保ってアウトボクシングに徹する作戦をとるか、それとも精密機械を狂わせるような乱戦に持ち込んでいくかが見所だろう。
両者の基本情報
ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ) | vs | ホセ・ペドラサ(プエルトリコ) |
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1988年2月17日 | 生年月日 | 1989年5月8日 |
12戦11勝(9KO)1敗 | プロ戦績 | 26戦25勝(12KO)1敗 |
170cm/166cm | 体格 | 173cm/180cm |
左ボクサーファイター | スタイル | 右ボクサーファイター |
試合展開
1Rは両者様子見。2Rにはロマチェンコの軽い左ストレートが何度かペドラサの顔面を捉えるが浅い。ペドラサも大振りはせず、シャープなパンチでロマチェンコの前進を阻んでいる。上下の打ち分けも巧みだ。
ポイントではロマチェンコ優位かと思われるが、当たっているパンチは浅く、明確なダメージはペドラサにもない。
4Rに入ると、左眉上をカットしたロマチェンコが勝負を急ぎ始めたのか、プレッシャーを強め始めた。するとペドラサはサウスポースタイルにスイッチしてロマチェンコの気を削ぐ。
ロマチェンコのスピードが上がる分、ペドラサは度々スイッチを繰り返すようになり、クリーンヒットを許さない。手数も多く、善戦以上の戦いぶりを見せている。
思ったより強敵・・・ロマチェンコはそう思ったのかどんどんギヤをあげて、ハンドスピードをあげる。6Rではペドラサの顔面をなんどかクリーンヒットし、ポイントを重ねる。
ペドラサとしては、ロマチェンコから初めてのダウンを奪ったリナレスの戦いぶりが記憶にあるのかもしれない、体格で上回るうえ、リーチが長いので、足幅は広めにとってパンチの衝撃を逃しつつも自分のパンチは当てられる。前後左右に素早く動いて距離を詰めたり外したりするロマチェンコに対して戦うには、これしかない戦法であるといえる。そのうえで、とにかく手を出し、ロープに詰められることは避けている。少なくともペドラサは勇敢さを証明し続けている。
8Rを迎えて後半戦に入ってもロマチェンコはペドラサからこれぞ、という有効打を奪えずにいる。KO狙いでいるのだと思うが、それが焦りにつながっているのだろう。顔面へのヒットにこだわっているかのようにも見える。それに体が柔らかいのだろうか、足幅を広くしていることもあって強打を食らってもさほどダメージを溜めずに、打ち返すことでロマチェンコに致命的な連打を出させない。
試合は11Rに入り、ポイントではロマチェンコ優位と見えるが、それでもペドラサの健闘ぶりが目立つ展開。しかし倒さなければ評価が落ちる、それをよく理解しているロマチェンコはさらにギアをあげて、ペドラサに連打を浴びせる。
そしてついにペドラサは膝をつき、初めてのダウン。立ち上がったペドラサに向けてさらにロマチェンコは連打を続け、二度目のダウンを奪うが、WBOチャンプの意地でペドラサは立ち上がり、最終ラウンドへと望みをつなぐ。
しかし逆転(KO)を狙うにはダメージは深く、足を使って捕まらないように動き回るのは精一杯・・。とはいえ、ロマチェンコの追撃を躱し切り、最終ラウンドのゴングを聞いた。その意味でKO負けを逃れたことでペドラサはチャンピオンとしての面目は果たした、と言える。
逆に、ロマチェンコはKOこそ逃したが、11Rに見せ場を作ったことで、復帰戦は成功、パウンドフォーパウンドの評価は保てた、と言えるだろう。
試合結果:3対0でロマチェンコの勝利
目の周りをカットされ、倒しきることができなかったものの、ロマチェンコは順当な勝利。
ただ、軽いクラスから上がってきた者の宿命として、自分より体格が勝る相手をKOすることの難しさを思い知ったのではないだろうか。
階級を超えたパワーやパンチ力ではなく、卓越したスピードとスキルで勝負するタイプのロマチェンコは、ライト級、もしくはその上のクラスでも戦える実力を持っているとも言えるが、この試合は、今後はさらなるアップデートを考えるきっかけとなったかもしれない。