もう1人のゲバラ、というには無理があるけれど・・・
オダギリジョー演ずる主人公フレディ前村ウルタードは、ボリビア生まれの日系二世。裕福な家庭に生まれたものの、親米寄りの軍事政権下では大学に進学できず、やむなくキューバに留学し、医大生となる。
当時のキューバはフィデル・カストロ、チェ・ゲバラらによるキューバ革命が成就して数年が経ち、米ソとの冷戦の間にあって、不安定な政局にあったが、フレディらボリビア青年たちからすれば、故国に先立って革命を成し遂げた憧れの国でもあった。
フレディは優秀な学生として頭角を示すが、軍事政権の横暴が続くボリビアの現状に、徐々にストレスとフラストレーションが溜まっていくのを止められずにいた。やがて母国ボリビアで軍事クーデターが起こると、フレディは医大を退学して、ゲバラらが指導する『革命支援隊』に身を投じる決意をする。
フレディはゲバラから”エルネスト・メディコ”というゲリラネームを授かるが、それはゲバラの本名であるエルネストと医学生出身であることを示す(メディコ)ものだった。
ゲバラ同様に医学の道から革命に身を投じ、ボリビアの地で命を落とした理想に準じた若者を、ゲバラの生涯に重ねて描いた実話ベースの作品。
キャッチコピーの”もう1人のゲバラ”というにはなんの実績もないけれど、祖国を思い、プライドと信念に命を賭けた青年フレディをオダギリジョーが熱演している。
見所は、フレディ留学から数年遡ったチェ・ゲバラの訪日シーン
映画の冒頭で、ゲバラが1959年に訪日したさまが描かれているが、本作の最大の見所はここだろう。
まだキューバ革命成立直後で、ゲバラといえどそれほど知名度はなかったし、なにしろいつ倒れるかわからない政権である、日本政府の対応はゲバラたちに冷たかった。そんななか、ゲバラは訪日中のスケジュールを変えて、広島を訪れ、原爆ドームや原爆資料館を見て回り、広島平和記念公園内の原爆死没者慰霊碑に献花してくれたという。
映画では、(原爆という非人道的な武器で)悲惨な状況を作り出した米国への怒り、という表現であったが、ここは単純に被曝して間もないヒロシマへの同情というか、優しさをもってわざわざ訪れてくれた彼の、人間性への敬意を評したシーンであると受け取りたい。