年間100本以上の映画を鑑賞する筆者が独自視点で今からでも・今だからこそ見るべき映画を紹介。
人生は煙のように儚く価値がないように見えるけれど、気づきさえすれば確かに重みがあって、限りなく愛おしい。

嘘と煙に満ちた作品だけど、誰もが哀しみと慈しみを抱えて生きている

1990年ブルックリンを舞台にしたヒューマンドラマ。
タバコ屋の店主オーギー、オーギーのかつての恋人ルビー、最愛の妻を亡くした哀しみから立ち直れない作家のポール、失踪した父親への愛憎を胸に潜める黒人少年ラシード。彼らの人生が交錯するとき、立ち込める煙の中で何よりも大事なことが見えてくる。映画の作りは、タランティーノの『パルプ・フィクション』に倣っていて、個々の登場人物たちの視点というか状況を表現しながら、フィナーレへと続いていく。

登場人物の多くは嘘をつく。ただ、彼らに誰かを騙して傷つけてやろうという意図はなく、ただ自分の弱い心を隠すためにだけに嘘をついている。同時に、登場人物たちはみな煙草なり葉巻なりを吸っていて(メインキャラクターであるオーギーがタバコ屋の店主であることから、それも当たり前と言えばそうなのだが)、とにかく画面がいつでも煙っている。
それは彼らがつく嘘と同じようだし、彼らが密かに抱えているなんらかの秘密や寂しさを表現しているようでもある。
オーギーの友人であり、強盗事件に巻き込まれて命を落とした妻を思うあまりに極端なスランプに陥っている小説家のポールが、映画の冒頭で、煙の重さの測り方についてのエピソードを話すのだが、重さなどとてもないかのように思える煙でさえも、着目することさえすればその重さを知ることができるというのは、意味がないように思える自分たちの人生も、その価値にさえ気づけば”その重さ”を知ることができる、という暗喩でもあると思う。

地味で淡々としているがタバコの煙が目にしみるかのように涙腺を刺激する良作

本作は、1995年にベルリン国際映画祭にて審査員特別賞である銀熊賞を受賞したもの。日本国内でも21年前に公開されたそうだが、そのデジタルリマスター版だ。
残念ながら21年前には知らなかった本作だが、とにかく淡々と流れていく物語の中で、うっかり飽きてしまいそうなところを、俳優たちの素晴らしい演技と見事なコマ割りが観ている者の関心を掴んだまま離さない。

芸術性も娯楽性も非常に高い、素晴らしい作品だ。
ぜひ、大切な誰かと一緒に観ることをオススメする。

画像: 映画『スモーク(デジタルリマスター版)』予告編 youtu.be

映画『スモーク(デジタルリマスター版)』予告編

youtu.be
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