今回はSNSが世論を左右する現代に警鐘を鳴らす問題作『ザ・サークル』。
全米ベストセラー小説の映画化を、エマ・ワトソン、トム・ハンクス、ジョン・ボイエガら新旧実力派を揃えて実現。
Facebookを思わせる巨大SNS企業サークルがもたらす超管理社会?
主人公のメイ(エマ・ワトソン)が就職したのは世界一のソーシャルネットワークサービスの運営企業サークル。Facebookを暗喩させるようなその巨大SNS企業に、強烈なカリスマ性で君臨するCEOのベイリーは、超小型x完全防水x360度カバーの特殊カメラを世界中に設置すると同時に、全人類の動向や生活をデジタル化して監視できるシステムを考案する。彼の理想は全人類の透明化。世界中の人々から秘密をなくし、ありとあらゆる情報や思考を、サークルを介してクラウドに保存することを目論んでいた。
当初は懐疑的だったメイだったが、難病の父親の保障までもカバーしてくれるサークルのあり方に、徐々に感化され、やがて自ら”人類初の完全透明化”の実験台に志願する。
人類の個人情報をすべて管理していくことで、テロや犯罪を根絶やしにしていこうするベイリーの理想には嘘がないはずだった。しかし、やがてメイはサークルの理想の裏側に潜む、利己的な企業倫理の欺瞞に気づいていく・・。
大量の個人情報流出問題で揺れ動くFacebookの状況を思い起こさせるようなストーリーで、ソーシャルネットワーク全盛時代が孕む重大な危機と欠陥を指摘する問題作。
未来を変える新しい何かへの畏怖
新しいインフラやサービス、社会体制に大きく影響を与えるような企業が現れると、必ずその存在に対して警鐘を鳴らしたがるのは世の常である。
インターネットの黎明期には、ネット社会への畏怖と不安を描いたサンドラ・ブロック主演のサイコスリラー映画『ザ・インターネット』(1995年公開)があったし、AIの進化に対しては『ターミネーター』や『エクス・マキナ』などがその恐怖を表わしていた。ある意味、過度な進化への怖れを象徴するカウンターとも言える。
同じように、フェイクニュースや個人情報の流出など、多くの社会問題を引き起こし、現実社会に過度な影響を与え始めたソーシャルネットワークへの恐怖感を描くのが本作だ。
本作のストーリーにはかなり難があり、無理がある。エマ・ワトソンをヒロインとし、トム・ハンクスという名優を敵役としておきながらも、クールなIT企業のリアルさを描こうとするあまりに、やや滑稽な描写が多い。Googleのキャンパス、Facebookのサービス、Apple(ジョブズ)のカリスマ、そうした典型系なIT企業群のかっこよさを掛け合わせて表現しようとするから、無理がある。
ただそうした欠点はおいて、本作が過去のさまざまなカウンターと同じポジションにあるのは間違い無く、その滑稽さと無理を超えて、今この時期に見ておくべき作品である。