今回は、孤独な少年と怪物の不思議な関係を描いた、ダーク・ファンタジーの傑作『怪物はささやく』の実写映画化作品。
母親の病気をきっかけに心を閉ざしてしまった少年。そんな彼の前に突如現れた怪物。
怪物は少年に「私はお前に3つの物語を話してやる。だから4つ目の物語はお前が話せ」と命じるが・・・。
病気の進行が進む母親。孤独と寂寥に病んでいく少年。突如現れた不思議な怪物。
母と二人暮らしの少年コナーは、癌に侵された母親が日々弱っていくさまを見て心を痛めていた。学校でもいじめに遭っていた彼は、つらい心の内を話せる相手もなく、一人絶望的な孤独に苛まれ、毎晩同じ悪夢を見続けて苦しんでいたのだ。
そんなとき、彼の前に家の窓から見える大木の中から這い出してきた怪物が現れ、不思議な要求をしてくる。
それは、怪物が3つの物語を話すから、4つ目はコナー自身が話せ、というものだった。怪物に言わせれば、コナーには誰にも言えない秘密がある。その秘密、真実を話せ、と怪物は少年に迫るのだった。
困惑するコナーだったが、怪物の存在が母親の病気を癒すきっかけになるのではないかと考えるようになる。
果たして怪物の正体はなんなのか。その目的とは?そして少年が抱える秘密の真実とは?
英国の田舎町の牧歌的な風景と、美しい旋律のBGMが、静謐だがテンポよく観る者をその世界観にひたらせる佳作。
母との別れを予感しつつもそれを受け入れらない少年の哀しい心模様
本作では、若くして不治の病を患った哀しい母親と、その死が免れないものとしりつつ受け入れることができない少年の関係を軸にストーリーが展開する。
母親の視点で少年が描かれることはないし、あくまで少年と彼の心模様を焦点に描かれており、少年以外で主体的に語る者があるとすれば、それは他ならぬ怪物しかいないのだが、それでも少年を遺して此の世を去る他ない彼女の無念さや、自分が他界する前に少しでも少年の哀しみを和らげ、拭いたいと思う彼女の気持ちが本作のトーンとなっているのである。
本作のラストで、怪物の正体や、孤独や絶望に囚われ続けてきた少年の哀しい心が癒されていくが、それは近年稀に見る素晴らしい結末であり、確実に見終わった時に自分の心も浄化されたような気分を味わえるものである。
そして、本作で癒されたなら、次は誰かにその素晴らしさをささやこう。
本作では怪物が少年にささやくが、本作を見たあとは、我々が他の誰かにささやくべきなのである。