米マクドナルドを世界最大のハンバーガーチェーンに育て上げた”創業者”レイ・クロックの、がむしゃらに成功と栄誉を求めた野心溢れる半生を描く。
他人の尻馬に乗る。自分のアイデアではなく他人のアイデアを評価する”目利き”こそがレイ・ブロックの真骨頂
多くの事業を転々としては、それなりの成功をおさめてきたレイ・クロック。チェコ移民の子である彼はビジネスの世界で大成功するという夢を持ち、その目標に向けて常に必死に働き続けていた。
紙コップ販売やミルクシェイクのミキサーの販売など、儲かりそうなネタに飛びついては会社を設立する。はたから見れば裕福な暮らしを実現しても、そこそこの成功には満足できず、より大きなビジネスチャンスを求めて動き回る。そんな桁外れの野心家レイ・クロックは52歳の時、大繁盛しているハンバーガーショップを経営する兄マックと弟ディックのマクドナルド兄弟と運命的な出会いを果たす。
マクドナルド兄弟は"注文から30秒で商品を提供する"効率的な厨房システムを考案すると同時に、”商品数を(最も売れている)ハンバーガー、ポテト、コーラに絞り”、”ウエイトレスを廃し”、”皿やカトラリーを無くして廃棄しやすい紙で包んで提供する”というシンプルな販売方法を生み出していた。今でいうファストフードの基本コンセプトである。
シンプルさを極めたこの効率第一のシステムに感銘を受けたレイ・クロックは、マクドナルド兄弟の発明は、ライン生産方式による自動車の大量生産を実現したヘンリー・フォードの偉業に匹敵すると考え、なんとしても相乗りしたいと考える。
そこでレイはマクドナルド兄弟にハンバーガーショップのフランチャイズ化を持ちかけ、契約することに成功するが、闇雲に事業拡大を目指すレイと、品質第一で安定した商売を望むマクドナルド兄弟との経営方針の違いがどんどん明確化しはじめ、やがてレイは自身の野望を果たすため、兄弟からマクドナルドの事業そのものを簒奪することを決意する。
野心に忠実な冷酷な企業家か、それとも保守を廃して革新を目指す名経営者か。
レイ・クロックの挑戦を肯定するか、否定するかは、観るあなた次第だ。
執念と覚悟の人レイ・クロック
マイケル・キートン演じる、本作の主人公レイ・クロックは、そこそこの成功に満足することなく、常に大成功を実現できるアイデアを求めて、文字通り全米をうろついていた。
彼は厳密に言えば創業者(ファウンダー)とは言えない。マクドナルド・ハンバーガーショップとその(ファストフード)コンセプトを作ったのはあくまでマクドナルド兄弟であって、レイではない。
しかし、マクドナルド兄弟が作った店舗ごとの効率化システムを、全米に広げるネットワーク化する、 フランチャイズ化するというアイデアを生み、そしてそれを実行した。
アイデアは生むこと自体にもちろん価値はあるが、それを育て、形にする必要がある。英語で言えば、execution こそが経営者の価値である。
その意味では、レイ・クロックがなければマクドナルドはローカルの美味しいハンバーガーショップにすぎず、ファストフードのコンセプトは世界中に広がることもなかったかもしれないのである。
作中では、資金繰りに悩みながらも成功に向けて邁進し、次第に対立していくマクドナルド兄弟に配慮しつつも、やがて毅然と排除するレイの冷酷さが示されるが、それはより大きな事業を生み出していくための必要悪なのである。
目的のためなら手段を選ばず、やるべきことをやる。そんなシンプルな行動力を持っているからこそレイは成功した。
映画の冒頭とラストに彼は呟く。成功には学歴も才能も関係ない、執念(英語ではPersistence=永続性)と覚悟が必要だと。
彼は50歳を過ぎても執念深く大成功を求めつづけた。恐るべき執念だ。
そして成功へのチャンスをくれたマクドナルド兄弟を切り捨ててでも大成功を求めた。それこそが覚悟だ。
執念と覚悟を併せ持つ人は実は非常に稀である。
その稀な人物を描いた本作もまた、非常に稀な、質の高いビジネス映画の傑作である。