長年勤めてきたテレビ局を辞め、自由な生活を求めてほぼ廃墟化したカフェを借りて住み着いた松ちゃん。最近気になる女性、クミちゃんがバイクに乗り始めたことで、ちょいと気もそぞろ。
そんなとき、彼女から突然のSOSが来て・・・。
Mr.Bike BGで大好評連載中の東本昌平先生作『雨はこれから』第27話「この境界線は君のため」より
©東本昌平先生・モーターマガジン社 / デジタル編集 by 楠雅彦@ロレンス編集部

松ちゃんの影響?でバイクにハマり始めたクミ

画像1: 松ちゃんの影響?でバイクにハマり始めたクミ
画像2: 松ちゃんの影響?でバイクにハマり始めたクミ

あたし、クミ。サーフショップを弟と二人で切り盛りしてるんだけど、最近はめっきりバイクにハマってる。免許をとったのは、このところウチにコーヒーを届けてくれるようになったバイク乗りのオジサン、そう松ちゃんの影響かな。いつもなんだか不機嫌そうに顔を曇らせている、気難しそうな彼だけど、あたしはちょっといいなと思ってる。だってちょっと可愛いんだもの。

愛車はホンダのCB400F。バイクに詳しい人はヨンフォアって呼んでるんだけど、あたしはよく知らない。だって形が可愛くて乗りやすそうだから買っただけだもの。

最近天気がよくないけれど、あたしはおかまいなくバイクに乗った。

画像3: 松ちゃんの影響?でバイクにハマり始めたクミ

突然のトラブル・・・助けて松ちゃん!

画像1: 突然のトラブル・・・助けて松ちゃん!

しばらくは快適に走っていたのよ、あたしもバイクも。
ところが人気の少ない通りで、突然エンジンが止まってしまったじゃないの・・・。

あれ!?・・あたしは少し驚いたけれど、すぐにまたセルボタンを押した。エンジンは一瞬かかるんだけど、すぐまたプスンと止まってしまう。

画像: ヨンフォアはエンジンが止まったまま、動かなくなってしまう。

ヨンフォアはエンジンが止まったまま、動かなくなってしまう。

「なによォ!」と毒吐いてみたものの、かからないものはかからない。こんなことなら少しはメカのこと勉強しておくんだったと思ったけれど後の祭りね。誰かに助けてもらうほかない。
早速松ちゃんに電話しようと思ったけれど、あの人、ケータイ持ってない。家に電話してみたけれど誰も出ないし、もう困ったっ。

どうしよう・・・と途方に暮れかけたあたしは、藁にもすがる思いで、馴染みの喫茶店の炉煎(ロイ)のマスターに電話してみた。

すると、マスターは「(松ちゃん)いるよ」というじゃない。あたしはホッとして電話口に松ちゃんが出るのを待った。

画像2: 突然のトラブル・・・助けて松ちゃん!

泣きっ面に蜂ってこと?

画像: 泣きっ面に蜂ってこと?

事情を説明して助けを求めたあたしに、松ちゃんはどんな症状か説明してくれ、と言う。だけどメカに弱いあたしにわかるわけもない。

じゃあちょっと見ててよ、とあたしは言って、スマホを道に置いて、松ちゃんがあたしとバイクが見えるように調整した。その状態でセルを回して、エンジンがかからないことを見せたのだ。

画像: スマホを路上に立て、実況中継を始めるクミちゃん

スマホを路上に立て、実況中継を始めるクミちゃん

「ね、かからないの」あたしは少し大き目の声を出して言った。電話の向こうから松ちゃんが何か言ったけれど、離れたところにいるあたしにはよく聞こえない。「えっ!? なんか言った?」と聞き返した時、思いもよらぬアクシデントが起きた。

画像: 電話越しにキックを使えと指示する松ちゃんだが、伝わらない・・

電話越しにキックを使えと指示する松ちゃんだが、伝わらない・・

降り始めた雨の中、バイクを押し始めたクミ

うそぉ!?

画像: スマホは哀れトラックに轢かれてしまう・・・

スマホは哀れトラックに轢かれてしまう・・・

画像: 通話が途切れて、戸惑う松ちゃんとマスター

通話が途切れて、戸惑う松ちゃんとマスター

それまで全く車なんてこなかったのに、あたしの横を通り過ぎたトラックがあたしのスマホを轢いていったのだ。ペキッ、カララッと音を立てて砕け散ったスマホを見て、あたしは思わず座り込んでしまった。

「あちゃーっ」あたしは諦め顔で呟いた。電話の向こうで松ちゃんとマスターは突然通話が途切れたことに驚いているだろう。また掛けてくると思って待っているかもしれないが、あたしにはもうどうしようもない。しかも悪いことに、パラパラと雨まで降ってきた。

弱り目に祟り目というのはほんとだな・・・あたしは心折れそうになったが、ここで立ち往生していても仕方がない。バイクを押して、ゆっくりと歩き始めた。どのくらいかかるかわからないけれど、バイクを押して帰る以外、あたしにできることはないのだ。

画像: やむなくバイクを押し始めるクミちゃん。無情にも雨も降ってきた・・

やむなくバイクを押し始めるクミちゃん。無情にも雨も降ってきた・・

画像: 降り始めた雨の中、バイクを押し始めたクミ

あたし、家に帰れるかな。でも、立ち止まっていたってしょうがない。惨めに濡れていようと、あたしはバイクを押して歩く。それしかないんだから・・。

そのとき、後方から乾いた排気音が聞こえたような気がして、あたしは振り返った・・・。

果たしてクミちゃんの運命は??大ピンチの姫を、我らが松ちゃんは救うことができるのか?

この続きは、どうぞ、本誌で!

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