謎の生命体が人類に向けて携えてきた”メッセージ”とはいったい? 宇宙からの使者と人類のファーストコンタクトを描くSF映画の傑作。
ストーリー:
正攻法のエイリアン(地球外生命体)映画ではなく、異生命コミュニケーション映画
”殻”でやってきた宇宙人を、米国政府は”ヘプタポッド”と名付ける。7本の足を持つ者、という意味である。その名の通り、彼らは昔ながらの火星人のイメージのようにタコのような姿をしている。
人類としては彼らヘプタボッドが地球に降り立った理由が知りたい。もし敵意があるなら攻撃しなければならないからだ。
ヘプタポッドとのコンタクトの為に政府と軍に選ばれたのが言語学者のルイーズ・バンクス(エイミー・アダムス)。彼女は口語によるコミュニケーションをあきらめ、文字による相互理解を行うことを考案し、実践する。
やがて、ルイーズはヘプタボッドたちが独自の文字(英語は表音文字だが、彼らの文字は表意文字だった)を持っていることを突き止め、日夜必死の解読に勤しむ。
徐々にヘプタポッドとのコミュニケーションを可能にし始めるルイーズたち解読チームだが、どこからきたのかも何をしに来たのかも分からない不気味な存在への恐怖や、盲目的な敵愾心に駆られた者たちが自国政府に武力によるヘプタボッド撃退を迫り始め、やがて圧力に負けた各国政府はヘプタポッドへの宣戦布告を開始してしまう。
焦るルイーズたちに、人類の存亡を賭けた戦争を止めるすべはあるのか??
自分が勝つには相手を負かさなければならない、という短絡的な行為ではなく、相互利益を目指すWin-Winなコミュニケーションを目指せ
本作は自分たちとは見た目も価値観も異なる相手とのコミュニケーションの重要さを描いた、非常に平和的な作品だ。
ヘプタボッドがルイーズを通して人類に伝えようとするメッセージとは別に、本作は全編を通じてひとつのメッセージを我々に送ってくる。
それは、得てしてゼロサムゲームに陥り、相手を打ち負かすことだけが自分たちの勝利であるように感じてしまうことへの警鐘だ。ゼロサムゲームとは、勝者と敗者の利得の総和がゼロになる、ということだ。
しかし、本来は非ゼロサム、つまり複数の人が相互に影響しあう状況の中で、ある1人の利益が、必ずしも他の誰かの損失にならない状況も考えなければならない、と本作は言う。
対立をした結果、どちらも敗者になり、誰にも利益がない状況もあり得るし、どちらも勝者になることを目指さなければならないのである。つまり、Win-Win、を考えなければならない、ということだ。
相手の意図が分からない、相手が何を考えているか分からない、という恐怖から、我々はその相手を敵視しがちだが、まずはお互いに理解し合うことを目指す、つまり交流をすることから始めよう。
本作は、緊迫したムードとスリリングな展開の中で、そんなシンプルなメッセージを我々に伝えてくれる。派手なアクションはないが、ヒリヒリとした緊張感を楽しめる傑作である。