ミッション期間は約10年。任務を請けたネルソン大尉は妻を残し、孤独の旅に出るのだが・・・
この広い宇宙に存在するのは我々だけではない、我々だけであるはずがない、という人類の強い願望をテーマとした、SFスリラー映画。
初めて明快な人工の通信を受信した人類の興奮と動揺を描く
近未来の地球。
この広大な宇宙に存在する生命は他にいるのか?そして我々同様に文明を持つ知的な生命体は存在するのか?という問いの答えを探して、人類はこれまでさまざまな実験やプロジェクトに挑戦してきた。
広い宇宙に生命が育まれる環境が整い、そして途中で絶滅せずに文明を作り上げる可能性は非常に低く、奇跡とも言えるが、それでも人類だけが唯一の奇跡であると決まったわけでもないからだ。
そんなとき、宇宙から受け取った3種類のノイズが、世界中を熱狂させる。それは単なる音ではなく、組み合わせると三和音となり、明らかに人工的なものであると考えられた。言うなれば宇宙の音楽、だったのだ。
発信源は、土星の衛星タイタン、海王星、準惑星エリスの3ヶ所。超大国である米国と中国は、このメッセージの送り主の詳細を知るために、探索ロケットの打ち上げを急ピッチで進める。通常計画スタートから8年はかかるところを、米国はわずか2年半で準備し、中国に先んじて打ち上げを敢行するのだ。
しかも、今回のミッションの重要度と意味は今までのそれとは桁違い。そのため米国は無人探索機ではなく、有人ロケットによるミッションを不可欠と考えた。
そのミッションを担うただ一人のクルーとして選ばれたのが、ネルソン大尉。帰還まで10年は要する長期ミッションだが、ネルソンは妻を残して宇宙に旅立つことを即決する。
航行中はほとんど人工冬眠用ポッドの中で眠っているので、ネルソン大尉自身にはそれほど時間が経っていることを実感できないのだが、残された家族にとっては何年かおきにしかネルソンに会うことができない(それもリアルタイムではなく、何時間もの時差のあるビデオ映像でしか会えないのだが)。妻の、そして地球でミッションに関わる者たちの不安や苛立ちがネルソンを不必要に刺激する。
そしてそのことがネルソンに、ベテランらしからぬ行動をさせてしまう。ネルソンは、目的地で発見したメッセージの発信源と思われる物体に、素手で触れてしまうのだ。そのことが、徐々にミッションに重大な影響を与えていくとは、そのときのネルソンには知る由もなかった・・・。
アクションゼロの低予算の宇宙映画
本作は人類と地球外生命体の接触を描くさまざまなSF映画の中では、おそらく最も低予算なのではないだろうか。特撮もセットも見るべきところがないし、登場人物も恐ろしく少ない。ネルソンに過酷なミッションを与える国防省長官は常にイライラしているし、ネルソンと間に入るベッカー担当官は、いたずらにネルソンを不安にさせるような態度をとってばかりの思慮の浅い人間だ。
ネルソン自身も、ベテランのスペースマンとは思えない(未知の物体に素手で触れるという)行為をしてしまうわけで、人物設定も含めて、全体的に粗い作りは否めない。
しかし、冒頭の、三和音のメッセージの到着に興奮を抑えきれずにいる彼らの様子は、無邪気というか、歓喜を爆発させている様子がよく現れて微笑ましい。
映画館で本作を観たら、ちょっと金額に合わないと思うかもしれないが、自宅のテレビでビールでも飲みながら観るにはちょうどいい。アクションはゼロだし、スリリングさもゼロだが、それでも広い宇宙に、思索する生命体は我々だけじゃない、我々は一人じゃないかもしれない、と思い、それを念じる気分を再認識するだけでもいいじゃないか、と思う。