猟奇サスペンスホラー漫画として人気を博した週刊ヤングマガジン連載「ミュージアム」(作:巴亮介・講談社)の実写映画化。
世紀のバッドエンディング映画デヴィッド・フィンチャーの「セブン」を彷彿
本作は、猟奇的殺人鬼カエル男が、とある事件の裁判に関わった裁判官と裁判員たちを次から次へと殺害していく。そのやり方は残虐で、腹をすかせた犬をけしかけて噛み殺させたり、身体をバラバラに切り刻んだりするが、そのやり方を象徴させるような刑の名目をメモに書き残す。例えば、犬に襲わせれば”ドッグフードの刑”、口の中に無数の針を押し込んで殺せば”針千本飲ますの刑”といった具合だ。
犯人カエル男は、殺人アーティストを自認しており、その犯行のやり方に冷酷な美学をもっていた。
彼は以前彼自身が行なった幼女樹脂詰め殺人事件において、無関係の人間が犯人として逮捕され冤罪のまま命を絶ったことに腹を立て、その関係者に罰を与えようとしていたのである。そして、犯人を追う沢村刑事の妻もまた、この裁判の裁判員の一人だった。
本作の流れは、デヴィッド・フィンチャー監督の「セブン」(ブラッド・ピット主演)を彷彿させるものがある。
『セブン』(Seven, 劇中の表記は"Se7en")は、猟奇殺人を描いた1995年のアメリカ映画。監督はデヴィッド・フィンチャー。
キリスト教の「七つの大罪」をモチーフにした連続猟奇殺人事件と、その事件を追う刑事たちの姿を描いたサイコ・サスペンス。先鋭的な映像センスと、ノイズを活用した音響により、シリアスかつダークな独特の世界観を描いている
「セブン」ではキリスト教の”七つの大罪”(「暴食」「色欲」「強欲」「憤怒」「怠惰」「傲慢」「嫉妬」)に基づいて、その大罪を犯す者に私刑を行う異常者と、彼を追う刑事を描いたが、本作では元々は私刑ではなく、殺人のプロセスとユニークさをもって”作品”の制作を行う”表現者”が、(幼女樹脂詰めという作品の制作者を別人と間違えることで)自分の名誉を汚した相手を対象に、私刑を行うという設定となっている。
カエル男の狂気に徐々に精神を蝕まれていく刑事を小栗旬が、殺人方法に独特の美学を求める殺人犯を妻夫木聡が 熱演
犯人カエル男は、重度の光線過敏症(紫外線アレルギー)を患っている。だから雨の日にしか活動しない。この設定が必然的に雨で煙る陰鬱な画面を多くする。そのムードには、韓国のフィルム・ノワールに通じる、湿度が高く行き場のない閉塞感がある。
前述したように、本作は「セブン」を思い起こさせ、徐々に犯人に翻弄され、追い詰めるつもりが追い詰められていく様子は、実に似ている。似ているが、カエル男の異常性とその誕生のエピソードを描くことで、本作は「セブン」とは違う、別物の狂気を作り上げることに成功したと思う。
主人公沢村刑事を演じるのは小栗旬。カエル男は妻夫木聡。
共に、死と暴力の波動に精神を蝕まれた男たちを熱演している。