オートバイ2017年8月号別冊付録(第83巻第12号)「Lady the phantom thief」(東本昌平先生作)より
©東本昌平先生・モーターマガジン社 / デジタル編集:楠雅彦@ロレンス編集部
監視カメラをスプレーで塗りつぶし、店内に侵入するスリムな黒い影
あたし、メグ。こう見えて、ルパンも真っ青な世紀の大泥棒よ。
今夜の標的は、でっかいダイヤ。さあて、何カラットあるのかしらね、とにかくあたしにしか似合わない豪華なやつ。
あたしは深夜、一人相棒のモンキーに跨って、静かに静かに目的地に向かったの。
監視カメラをスプレーで塗りつぶし、音もなく建物に忍び込む。あたしにとっては朝飯前って話よ。深夜だけどね。
暗い店内に入ったあたしは素早く目的のブツの隠し場所に向かった。他の獲物には目もくれないわ。一途に目標だけにフォーカスするのも一流の証拠よ。
固いセキュリティも、あたしにとっては赤子の手をひねるようなもの(そんなかわいそうなことしないけどね)、ハイテクのガードシステムもあっさりと突破しちゃう。そう、あたしは世紀の大泥棒だもの。
目的のダイヤを手に入れたあたしは、会心の笑みを浮かべた。うん、おっきい。
これくらいのダイヤじゃなきゃ、あたしには似合わない。あとは入ってきたときと同じように、静かに退散するだけ。
と、思った瞬間に明かりがついて、大勢の人間の気配を背中に感じた。
「そこまでだ、お嬢ちゃん!」
勝ち誇ったような、ちょっとしゃがれた男の声が響いた。ゆっくりと振り向くと、軍服マニアみたいなおっさんが自信たっぷりといった風情で立っていた。その周りには武装した数人の男たちが私に向けて銃を構えている。
あれ?これ、ちょっとやばくない?
追い詰められた彼女とモンキー。その視線の先には・・・
やばい、と思ったら躊躇しないこと。
あたしは文字通り脱兎のごとく逃げ出した。こんなところでつかまるわけにはいかない、だって早く部屋に帰って、石鹸の泡にくるまりながらカラダの上でダイヤを転がしたいじゃない。
あたしは近づいてきた男たちを振り切って、相棒のモンキーに跨ると、一気にアクセルを開けた。
「逃すなぁ!!」と軍服のおじさんが叫ぶ。一斉に男たちは撃ってきたけどあたしには当たらない。建物の外に出ると、武装した男たちはでかいオートバイで追ってきた。あたしのモンキーは小回りはいいけど、さすがに大型バイクとの競争には向いてない。すぐにコンクリートの道路壁の外に追い詰められたあたしに、男たちは嘲笑うように「そんなんで逃げられるのかよ」と言った。
そのとき、あたしは奴らを見ていなかった。あたしの視線はコンクリートの壁に開けられた小さなトンネルに向いていた。
男たちは、あたしを追い詰めたという確信に、ヘルメットの中で余裕の表情を浮かべていたはずだ。ゆっくりと近寄ってくる。
次の瞬間、あたしはモンキーをターンさせ、小さなトンネルに突っ込んだ。でかいバイクたちは当然トンネルに侵入することはできない。あたしはモンキーの小さなタンクに身を伏せるようにして、全開で加速した。
さらば、モンキー。ありがとう、モンキー
果たしてメグの運命は??そして、驚きの彼女の正体は?
それはRIDE本誌で見ていただくこととして、誕生50周年という節目の2017年、生産終了が宣言されたHONDAの名車モンキー。生産は終わってしまうけれど、これからも我々の心にそよぐ爽やかな風として、生き続けるのは間違いがない。
ありがとう、モンキー。これからもよろしく。
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