二股かけてた男が、三股疑惑をかけられ追い詰められる、極上のサスペンス(?)
西風先生作「西風CROSS ROADS 1」(モーターマガジン社)より
待ち合わせの女にビンタをされるなんて!?
俺は渋さで売ってる。そうさ、誰でも知ってることさ。だから当然モテる。
いつだって女は切れたことがない。今も密かに二人の女といい関係を保っている。もちろん彼女たちは互いのことは知らない。
え?バレたらどうするかって?いやいやそんなヘマはしない。俺はやり手なんだ、渋いだけじゃないってことさ。
その俺があろうことか、衆前で女に頬を叩かれる屈辱を受けるとは、夢にも思わなかった。その日、急に女に呼び出された俺は、愛車のコルベットを駆って街のカフェへ繰り出した。そんな災厄が待っているとは知らず。
俺より先についていた女は黙ってコーヒーを飲んで待っていた。テーブルの上に視線を落とし、妙な雰囲気を醸し出して座っている。
「何だい?話って・・・」と俺はサングラスをつけたままで彼女の前に座ると、自慢の低い声で切り出した。
すると、伏し目がちだった彼女はキッとした瞳をこちらに向けると、いきなり右手で俺の頬を張り飛ばしたのだ!
ビシっという音が店内に響き、周囲の好奇の目が俺たちに集まる。弾みでサングラスが外れ、右耳にかろうじてぶら下がった。俺はとっさに左頬を抑え、痛みをこらえながら怒鳴った。「何するんだョ!? いきなりィ〰!」
彼女は鬱憤を晴らして満足したのか、そのまま立ち上がると「さよならッ!!」と言った。
何だよ、判んねーなァ突然・・と俺はサングラスを付け直しながら、できるだけ冷静を装ったが、彼女は「金髪の彼女と仲良くすれば・・・」と冷たい笑顔を向けながら立ち去ったのだ。
金髪のあの娘??いったい誰だ?
わけがわからなかった。ただ、その場に取り残されて周囲に嘲りをこめた視線を向け続けられるのもかなわないので、俺はそそくさと(女のコーヒーの)代金を払って店を出た。
憤懣やるかたなくドヤ(自宅)に戻ってみると、部屋のドアの前で、今度はもう一人の女が血相を変えて待っていた。
「先週の土曜日ィ!」と彼女は叫んだ。「私には一度も乗せてくれなかったくせに!あの金髪のコ誰よォ!あの娘!‼︎ 一緒だった金髪の娘よ!」
あまりの剣幕に俺は怯んだ。いつもの渋さもクールなポーズも吹っ飛んでいた。いざとなると女は怖え。俺は情けなくも冷や汗をかくほかなかった。
女は言うだけ言うと、俺を置いて帰っていった。顔にも態度にも、四文字言葉(F●CK)をたっぷりみなぎらせて。
残された俺は何が何だかさっぱりわからなかった。
俺がそんな浮気なんてするわけないじゃないか・・・と俺は独りごちた。先週の土曜??思い出しても覚えがない。愛犬を連れて車で箱根に行ったくらいのもんだ。
わけがわからず、途方にくれた俺は、ふたたび外に出て車ででかけようとドアを開けた。そのとき、俺の犬が待ってましたというばかりに俺の横をすり抜け、俺のコルベットに乗り込んだ。
その瞬間、俺には全ての謎が解けた。こいつ、確かに金髪だ。
舌を出しはぁはぁ言いながらこちらを見る愛犬の姿を見ながら、俺は納得しつつも、なんてこった、と誤解が産んだ顛末にため息をついたのだった。