前年からの準備が、見事に実ったホンダの戦略モデル!
前年の1983年の鈴鹿8耐に、ホンダはRS850Rというマシンを投入しました。水冷90度V型4気筒DOHC4バルブのパワーユニットを搭載するRS850Rは、ファクトリー仕様では排気量を930ccまで拡大していましたが、TT-F1の1,000ccには満たないことには変わりはありません。
1983年大会、フレッド・マーケルとジョン・ベタンコート組が3位表彰台を獲得したRS850Rは、500万円の価格で市販されましたが、1984年にはTT-F1規定が1,000ccから750ccへダウンしたことに合わせ、RS750が登場しています。つまり、ホンダはこのレギュレーション変更をにらみ、前年からV4の新型機の熟成に励んでいたわけなのです。
量産のVF750Fとは異なり、バルブトレインにはチェーンに代わるセンターカムギアトレインを採用するRS750Rは、公称出力120ps/12,500rpmを誇りました。車体はスチールチューブラーのRS850Rから、アルミ角断面材のフレームを採用することで、約10kgも軽量化しています(なお世界TT-F1選手権用ジョイ・ダンロップ車とボルドール24時間耐久用には、RS850時代からアルミフレームを採用していました)。
RS750Rの最高出力は1,000cc時代のTT-F1マシンに比べると落ちましたが、ハンドリングなどを含めたロードレーサーとしての総合力では進化していたRS750Rは、ライバルたちを退け1-2-3フィニッシュの完全勝利を達成。「V4のホンダ」の強さを、初めて鈴鹿の観衆に見せつけることになったのです。