同時に、彼らと敵対し、死闘を繰り広げる一人の男、オリジン。彼もまた、同じ「父」に作られた、ロボットなのでした。今、一番熱いAIアクションコミック、激アツ胸アツ、絶対買って読んでほしい一作です。
人間と共存を願う主人公オリジンと、独立した居場所を求める兄弟ロボットたちの闇の中の闘いを描く傑作
田中仁ことオリジン は、限りなく人間に近いロボット。彼は「父」と呼ぶ科学者に作られたのですが、詳細は今のところ不明です。「父」は北海道で事故かテロかによって死亡していて、オリジンはその父の死を看取っていることは紹介されています。また、同じ「父」に作られた兄弟ロボットが他に8体いることはわかっています。
人間社会に溶け込み、自分がロボットであることを隠しながら生きていこうとするオリジンとは正反対に、人間を殺してでも自分たちの居場所を作り上げようとしている。それが本作のストーリーのベースとなっています。
オリジンは兄弟ロボットとの対立を避けようとしつつも、人間を守るために兄弟たちとの闘いを余儀なくされています。兄弟たちとオリジンの機能的な差はほとんどありませんが、ロボットのOSとも言えるAI(人工知能)の処理速度において、オリジンは若干優位にあります。そのため、敵対するロボットに比べて圧倒的に有利であるとはいえず、状況によっては負けるかもしれないギリギリの勝負に追い込まれていくのが、とても面白いです。
そんな中で、単に相手を破壊する、もしくは生き延びる、というシンプルな行動をとる敵ロボットと比べて、オリジンは少し不可思議な思考を持っていることが、本作の重要なプロットにもなっている、と思います。それは、自分たちより弱い存在である人間を守ろうとするということです。
オリジンは、もちろんできる限り自分自身が生き延びることを諦めませんが、そばにいる人間の命を可能な限り守ろうとします。正義の味方、というようなシンプルでわかりやすい設定ではなく、何か理由があって、人を守ろうとしているようなのです。
ちゃんと生きていく、という根本原理
オリジンには意志はあっても感情はありません。オリジンだけでなく、超高度に作られた他のロボットたちも同じです。判断はできるし、命令に対して忠実にもなれるけれど、そこに喜怒哀楽はないのです。
しかし、いつかオリジンは、自分にも感情が生まれるかもしれないと思い、そしてそれを心待ちにしている様子です。それはなぜかというと、死んだ「父」が、日頃”お前にもいつか感情が生まれるかもな”と話していたからです。オリジンにとって「父」の存在は絶対であり、彼との生活の記憶(記録というべきか)が、オリジンをオリジンたらしめているのです。
そして、彼が常に心に留めて、行動の全ての規範=根本原理としているのが、”ちゃんと生きていく”ということです。これは「父」の遺言であり、死の間際でオリジンに涙ながらに語った言葉です。ちゃんと生きていくんだ、と「父」はオリジンに言い残してこの世を去ります。ちゃんと生きていけ、という意味を、オリジンのAIはさまざまな解釈をして、シチュエーションに合わせて常に規範として行動をするようになります。
その中で、前項で書いた、なぜか彼が時として危険を冒してでも人間を守ろうとするのか、という疑問に対する答えが生まれます。オリジンは、目の前で人間が生命の危機に陥った時、自分より弱い存在の人間を守ってやることが”ちゃんと生きる”ことであると判断するのです。
自分自身が破壊されることが間違いないときはやむを得ず見放してしまうかもしれないとしても、多少壊れるくらいのリスクであれば、ギリギリまで人を救うために頑張れ、と「父」は言っているのだ、とオリジンは判断するのです。
ぼくたち人間は、教育によって、さまざまな教えをいただきながら大人になりますが、単にちゃんと生きろ、ちゃんとしろ、と言われるだけで、オリジンのようになれるでしょうか。聖書などにも、おありがたいお言葉はたくさんあると思いますが、それを都合よく解釈して、なぁなぁでやりすごしたりしていないでしょうか。
愛する人からちゃんと生きていくんだ、とだけ教えられ、その簡潔な教えをさまざまなシチュエーションに対して正しく解釈し、適用し、正しく生きていこうとするオリジン。彼の行動にぼくは不覚にも胸を熱くしてしまうのです。