本作は、フォースを使いこなすような才能には恵まれなくても、それでも身を賭して絶望的な戦いに身を投じる”ローグ・ワン”たちの活躍を描いている。スター・ウォーズ・シリーズは、常に才能ある者達の伝説であったが、才能がない普通の人間の偉業にスポットライトを与えようとしたところが素晴らしい。
(上の画像は、映画鑑賞者に配られる特典の○○)
シリーズ第1作エピソード4の小さな謎から作られた新しい物語
おなじみスター・ウォーズシリーズの「外伝(スピンオフ)」として制作された『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(以下『ローグ・ワン』)を早速劇場で観てきた。実を言うと僕はスター・ウォーズフリーク(というほどではないか・・)。シリーズ全作を映画館で観ているのだ。
簡単に言うと、本作はスター・ウォーズの第1作(時系列で言うと4番目、『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』、以下エピソード4)の直前の時間設定である。エピソード4では、帝国軍の最終兵器"デス・スター"(巨大な衛星型宇宙船であり、惑星を破壊する武装を持つ)の脅威に晒された反乱軍が、デス・スターの設計図を入手することで反撃に出るところが描かれているが、その設計図を決死の挑戦で手に入れた勇士達こそが本作の主人公達”ローグ・ワン”である。
物語は、デス・スターの主任設計者ゲイレンの一人娘ジンが帝国軍から身を隠し、やさぐれた生活を余儀なくされているところから始まる。ゲイレンは帝国軍の貨物船のパイロットを亡命させ、デス・スターの設計図の在処を反乱軍に伝えるが、設計図の奪取計画は困難を極め、誰もが尻込みしてしまう。そんな中、ジンは 反乱軍の戦士 キャシアンをはじめとする十数名の志願者とともに”ローグ・ワン”として、設計図を保管している惑星スカリフに向かう。
エピソード4では、帝国軍からスパイが設計図を盗み出した、というあっさりとした紹介に終わっていた、このデス・スターの設計図入手 という隠れた業績(というか、どうやって手に入れたのかな、と誰もが思った小さな謎)を、エピソード4から40年近く経た今になって、大きく引き伸ばして新たな物語へと昇華させたのが本作であり、作り手なのかマニアの想いなのかわからないが、とにかくスター・ウォーズ・シリーズへの執念と愛情を感じさせるのが『ローグ・ワン』なのである。
フォースへの敬意と、絶望の中でも希望を捨てない勇気
ローグ・ワンのメンバーにはジェダイのようなフォースの使い手はいないが、エピソード4へのオマージュが全編に渡って散りばめられており、登場人物たちの間には人智を超えた宇宙の深淵の力であるフォースに対する深いリスペクトがある。(例えばローグ・ワンのメンバーにはジェダイになることを切望して修行に励んできた戦士がいる。)
シリーズではおなじみのフォースやライトセイバーは、ほとんど出てこない、というより、本作ではシス(ジェダイに対抗する暗黒のフォースの使い手)であるダース・ヴェイダーが圧倒的な存在感と強大さを見せつけるシーンがいくつかあって、それがファンにはたまらないのであるが、そのヴェイダー卿によってしか、フォースもライトセイバーも使われていない。
それでもフォースを信じ、正義を奉じるローグ・ワンの面々の勇壮かつ悲壮な戦いを観ていることで、エピソード4につながる正義のフォースの使い手=ジェダイの登場を、希望を持って期待するようになる。
普通の人たち、名もなき勇者の努力に感動する
ちなみに本作を観て思うのは(『フォースの覚醒』を観ても思ったが)、フォースという力が、修行によって得られるモノではなく、あくまで天性のモノ、才能として描かれていることへの寂しさだ。頑張ってもスカイウォーカーにはなれないし、ダース・ヴェイダーにも勝てないという劣等感というか、敗北感を抱かざるをないところがある。
前述もしたが、主人公のジンが率いるローグ・ワンの中にはジェダイを目指して修行を積んできた武術の達人が登場する(彼は盲目でもある)。凄まじいばかりの武芸を見せつける彼ではあるが、それでもライトセイバーを使えるわけでもないし、フォースを使えるわけでもない。結局は素質がなかった、というところに落ち着いてしまうのだが、それでも彼はいつかフォースが身につくことを疑いもせず、その結果として彼自身の勇気と信念によって奇跡的な活躍をみせる。
その意味では、主人公のジンも、キャシアンら他のローグ・ワンのメンバーも、清々しいくらいに普通の人だ。特に超絶的な能力があるわけではなく、あるのは死を恐れない勇気と、強い信念に支えられた希望だけである。
フォースを使いこなすような才能には恵まれなくても、それでも身を賭して絶望的な戦いに身を投じる彼らは、紛れもなく勇者であり、偉大な存在だ。スター・ウォーズ・シリーズは、常に才能ある者達の伝説であったが、才能がない普通の人間の偉業にスポットライトを与えようとしたところが、本作は異端≒スピンオフであり、そして素晴らしい。スター・ウォーズ・シリーズに新たなファンと輝きを与える良作であると思う。