舞台は1990年代半ばのデトロイト。富裕層が住む都市部と、貧困層が住む郊外の境界線となる一本の通りは8マイルロードと呼ばれていた。タイトルの「8 Mile」とは、この通りの名前から来ているわけで、郊外に住む貧しい人々からすれば8マイルの向こう側に行くこととは、成功して金持ちになるという無謀な野望を意味する。
アル中の母親と健気な妹とトレーラー暮らしをしている白人青年ジミーの唯一の希望は、得意なラップで認められることだが、白人であるがゆえに、ラップは黒人のものという先入観や偏見に自らも囚われてしまい、実力を発揮することができずにいるー。
人気ラッパー エミネムが主人公ジミーを演じて話題になった、音楽に全てを賭ける若者の青春映画の傑作。

『8 Mile』(エイトマイル)は、2002年にアメリカ合衆国で製作された映画。カーティス・ハンソン監督。デトロイトを舞台にした、エミネムの半自伝的な作品で、彼の初劇場主演作である。

実は僕はこの『8 Mile』のDVDを持っているし、サントラ盤も買った。ミュージシャンが片手間に作ったアイドル映画のように思うかもしれないが、実に骨太で、切なくも凛々しい良い作品だ。
エミネムが演じる主人公ジミーは貧しい白人青年だが、彼の交友関係はほとんどが黒人であるし、彼が没頭するラップもまた黒人の文化だ。彼が住む貧困の街には多くの黒人が住み、自らの才能を信じてラップを武器に8マイルを越えようとする黒人が無数に存在する。
ジミーの仲間達は彼の人柄やラップの腕を認めているが、ラップバトルに出場すれば、多くの観客が”白人にラップができるのか?”という疑心暗鬼の目でジミーを見るし、何よりジミー自身が自分の才能を信じきることができていない。

つまり、街の富める者と貧しい者を二分する境界線は、白人と黒人との境界線でもあり、実際に街を横切る8マイルロードではあるが、ジミーや周囲の黒人達の心の中にもまた8マイルロードが存在する。

ジミーはラップで成功して8マイルの向こう側へと渡っていくことを夢見ているが、それにはまず、心の中の8マイルの向こう側、すなわち、(白人である)自分にもラップで黒人たちと同等以上に渡り合えるんだ、という自信と自覚を持たなくてはならないのである。

ジミーの心の中の葛藤と、過酷な環境に苦しむ若者の夢と現実の狭間を、この映画は非常に巧みに描いている。劇中、ジミーには恋人(演じるのは32歳の若さで早逝した女優ブリタニー・マーフィー)ができるが、ジミー同様に8マイルを越えたいと熱望する彼女は金のある男に体を委ねてしまう。もちろんジミーは絶望し、怒りを覚えるのだが、今の環境を抜け出したい、そのためにはなんでもしようと考えた恋人の心情を、哀れにも理解し同情してしまうのだ。
もしかしたら自分に足りないものはなりふり構わず戦う意思かもしれない、ジミーは恋人を責めながらもそんな思いに駆られていくように思う。

画像: ひたむきで懸命に生きる若者を好演したエミネム。特に熱っぽく訴えかけるような瞳に引き込まれる。 www.youtube.com

ひたむきで懸命に生きる若者を好演したエミネム。特に熱っぽく訴えかけるような瞳に引き込まれる。

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久しぶりに本作を見て、ラップバトルに挑戦する多くの若者達の姿が、昨今 度々開催されるようになった、ビジネスモデルを競うピッチに集う若い起業家達に重なった。

僕はいま、どこにいるのか。8マイルロードの向こう側なのか、こちら側なのか、それとももはやそのどちらでもないのか。この映画を再び観ようとしたその心には、若い挑戦者たちの姿をみて、自分の存在意義を確かめたいという想いがあったのかもしれない。

画像: エイト マイル 8 Mile (日本語吹替版) www.youtube.com

エイト マイル 8 Mile (日本語吹替版)

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画像: Lose Yourself by Eminem | Eminem www.youtube.com

Lose Yourself by Eminem | Eminem

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