クエンティン・タランティーノという、カルトでエッジのきいた映画を数々リリースしてきた、映画監督をご存知の方は多いと思う。日本映画が大好きなことでも有名で、代表作ともいえる「キル・ビル」では日本を舞台にして、ヤクザや栗山千明が演じる女子高生の殺し屋などを登場させている。タランティーノ監督は、日本の古いヤクザ映画など、様々なカルト映画へのオマージュを作中に盛り込んで、映画ファンの心をくすぐる玄人好みの監督でもある。
そんなタランティーノ監督の映画は、テーマ曲はもちろんBGM(劇中音楽)のチョイスが素晴らしく、全ての作品をサウンドトラックでも印象的なものにしている。1970年代のソフトロックやR&Bが多いが、いわゆるレアグルーブというジャンルに属する、マニアックな楽曲を採用しているのだ。いや、これはちょっと語弊があるかもしれない。レアグルーブとは、主にヒップホップのアーティストが、作品のベースのリズムに引用した楽曲をさすという解釈だとすると、タランティーノ監督の場合は、彼が映画で選曲した楽曲が、レアグルーブとして再評価されるというほどだからだ。
キル・ビルはもちろん、パルプ・フィクションやジャッキー・ブラウンもいいが、なんといっても1992年に公開された、デビュー作でもある「レザボア・ドッグス」のサントラは秀逸だ。テーマ曲であるジョージ・ベイカーの「Little Green Bag」は、日本のCMソングでも使われたので耳にした方も多いだろう。
クラブDJでもあった私的には、こちらの曲が思い出深い。1970年代のスウェーデン出身のロックバンド、ブルー・スウェードの「Hooked On a Feeling」だ。“ウガチャカ・ウガウガ…”というインパクトのある唄いだしが印象的な一曲。
これを初めて聞いたのは、実は映画ではなく90年代に一世を風靡した、青山のクラブ「アポロ」だった。初期のアポロはホントにカッコいいクラブで、芸能人や発足したばかりのJリーガーの姿もよく目にするような最先端のお店だった。私はこの頃、このアポロに通い詰めていて、木曜日のレギュラーDJだった高宮永徹さんが、盛り上がったタイミングでこの曲をかけていたのだ。
私は初めてこの曲を聞いた時に衝撃をうけて、DJブースに立つ高宮さんになんという曲だとすぐに聞いたところ、最近ニューヨークで仕入れてきた、レザボア・ドッグスというカルト映画のサントラだと、ジャケットを見せてくれた覚えがある。まだ東京ではこの映画が話題になる前のことだったように思う。
この曲は、特徴的なイントロの“ウガチャカ…”でフロアは騒ぎだし、曲中のハンドクラップでオーディエンスが一体になるという。なんともオイシいクラブミュージックだった。その後、もちろん私もこのサントラ(意外とレアアルバムでしたが)を苦労してアナログ版で入手して、クラブでヘビーローテーションしてました。
タランティーノは音楽の使い方がとってもうまい監督だ。曲を発掘するのが職業ともいえる、ヒップホップアーティストやクラブDJに影響を与えたという意味で、彼は優れたDJでもあるなぁと思うわけです。