ダウンフォースと2輪車の相性は?
英語苦手なので間違っていたらスミマセンが、Wingletって小さいを示す接尾辞「let」をウイングにつけた言葉ですよね。太くてデカイ葉巻のシガーに対して、細くて小さい紙巻きタバコのシガレットみたいな・・・? 確かに最近MotoGPで使われているウイングは、サイズ的にはウイングレットという呼称がふさわしいでしょう。
しかし! かつて1970年代半ば、ウイングと呼ぶにふさわしい、デカいエアロパーツをロードレーサーに試した人がおりました。当時ニュージーランドでは、「マールボロシリーズ」というシリーズ戦がありましたが、その舞台の主役となったのは最強の市販750ccマシンと呼ばれたヤマハTZ750でした。
ひとりの若者の意欲作!
ニュージーランド人のロジャー・フリースは、ポール・マクラクランが所有していた製造番号162番目のツインショックのTZ750Aを1977年に譲り受けます。22歳の大学生だったフリースは、その年の内にTZ750Aにある改造を施し、大きなセンセーションを巻き起こすことになります。
パッと見ではイロモノ風に見えますが、フリースは1984年に宇宙物理学の博士号を得た「ドクター」であり、そのウイングはちゃんとした研究の産物として生み出されたものです。ダウンフォースを得ることでより良いコーナリング性能を得ることが、ウイング採用の狙いでした。
テストを経て、フリースのウイング付きTZ750Aは1977年9月のマンフィールドでのレースを走ることになりました。しかし、安全上の問題についてクレームがつき、レースを統括するNZACUのジム・ドゥハーティは、リアウイングを外すことを命じます。その結果、フロントウイングのみの仕様で決勝を走ることになりました。
翌月、フリースらはハークスベリーで開催された、7.2kmの公道レースに参加します。当日の朝、ローカルのレース・スチュワードはNZACUの公式判断を得ていなかったので、前後ウイングを装着した状態での出走が許されました。しかし、フリースはフロントウイングのみ装着したセッティングを選択。ウェット状態の3つのレースで、TZ750Aは全戦ジョン・ウッドリーの駆るスズキRG500に次ぐ2位をゲットしました。
安全性の問題は、当時も危惧されていました。
好成績をおさめたエアロフォイルVIKO-TZ750Aでしたが、11月のプケコヘ・サーキットでのレース前のNZACU会議の結果、この翼のついたロードレーサーはレースから排除されることが決まりました。レース中の接戦で接触に起因する事故、そして転倒時に突起物である翼に巻き込まれたりすることの危険性・・・。この裁定を聞いたフリースは非常にがっかりしましたが、裁定に対する抗議は一切しませんでした・・・。
安全性について、翼の是非が問われているのは今のMotoGPの状況にも似ていますね。もちろん、近年のウイングレットはエアロフォイルVIKO-TZ750Aより小さいものですけど・・・。ウイングレットが来年以降もMotoGPマシンに装着されるのか、それとも排除されるのか・・・気になります。
余談ですが、鬼才、ジョン・ブリッテンの作品のひとつ、「エアロバイク」もナックルガード部が大きなウイングになっているのが特徴でしたね。ニュージーランドは、エアロダイナミクスをモーターサイクルで追求するエンジニアを育む風土があるのでしょうかね?(笑)。