ヤマハからネオレトロというコンセプトの「XSR900」が発売されるという。現代のバイクのスタンダード・スタイルのひとつとなりつつあるMTシリーズに続き、ネオレトロ・スタイルがどのようにライダーたちに受け入れられてゆくのか楽しみだ。
ロレンスでもいち早く紹介しているが、XSR900のプロモーション映像ではXS-1など往年のビンテージバイクが登場し、バイクに乗る原点をあらためて思い起こさせるような仕上がりとなっている。このXSR900の映像を眺めていて、私はなぜかヤマハの2ストロークマシンの名車「RZ350」を思い出していた。
1981年に発売されたYAMAHA RZ350。このマシンは珠玉のような80年代のクラシックスポーツの中でも、ナナハンキラーなどと称され特別な存在であったと思う。前年に登場したRZ250は、ヤマハらしい流麗なデザインと、軽量な車体に強力な水冷2ストロークエンジンを搭載して、400cc以上は4スト4気筒が主流になりつつあったミドルクラス(ナナハンも含めて)に一石を投じたといってもいい。その後、1983年にはあのスズキRG250ガンマが登場し、世間は一気にレーサーレプリカブームとなり、それが今のスーパースポーツへとつながってゆく。
リッターバイクが逆輸入車でまだ珍しかった時代。大型バイクに乗るための免許取得は、限定解除とよばれ超難関の試験だった。そのため中型自動二輪免許(現:普通自動二輪免許)で乗れる最大排気量が400ccである中で、350という中途半端な排気量がなんともホンモノ感をくすぐられたものだ。この頃、高校生であった私たちの間では「サンゴー」と呼ぶものもいたが、しだいに「サンパン」という呼び名が定着していった。私はなんだかサンパンといういい方が軽薄に感じられ、いつまでもサンゴーといい続けていたけど(笑)
繰り返しになるが、時代はすでに4スト4気筒のスポーツバイクが中心となっていた。スポーツバイクといっても、この時はまだ今でいうネイキッドスタイルで、だいぶオーセンティックなプロポーション。水冷2スト2気筒のRZ250/350は、見るからに軽量で引き締まったボディを持ち、非主流とはいわないが走りにこだわる走り屋たちに支持されたように思う。私の先輩もそのひとりで、彼はツーリングでもキャブレターのメインジェットをいつも数種類用意していた。休憩の際に天候や道の標高に合わせて、いちいちメインジェットを交換する姿は、さながらレースでのピット作業をみているようだった。
もちろんRZはそんなことをせず、どこでも高性能を発揮するバイクだったが、そんなマニア心をくすぐるマシンでもあったのだと思う。当時、思いっきり王道ともいえるCB750Fを乗り継いでいた私も、一時期RZ350に乗っていたことがある。くだんのマニアックな先輩から譲り受けたRZ350だ。
現代は2ストのロードバイクはほぼ絶滅してしまったようなものだけど、この頃はロードレースでも2ストマシンがメインで、走り屋は2ストを好んでいたようだが、私は2ストのロードバイクは初めてだった。今の人はピーキーっていう言葉を知らないかもね。2ストエンジンは4ストと違って、エンジンが一定以上の回転数にならないと充分なパワーがでない。これをピーキーなエンジンと表現していた。250に較べてトルクのあるRZ350はそれほどピーキーな性格ではなかったが、ナナハンから乗り換えるとやはり2スト独特の性格は異質のものだ。
2ストのロードバイクをワインディングロードで乗りこなすのは、それなりの腕を要する。走り屋やマニアに好まれるゆえんだろう。私は正直いうと乗りこなすところまでは至らなかった。それでも直線で、だーっとアクセルを開けてゆき、パワーバンドに入るとどこまでも加速してゆくかのようなアールゼット・サンパンに、このまま空まで飛んでゆけるのではないだろうかと錯覚したものだ。これは2ストマシンならではの感触ではないかな。
ナナハンと較べると、明らかにコンパクトで軽量な車体。それでいて存在感で引けを取らないと感じたのは、車体に対してやや大きめのタンクのせいだろうか。やはりデザインによる全体のバランスがとてもいいのだと思う。それにしてもヤマハのバイクは美しい。RZの流麗なボディデザインは今見てもハッとさせられる。まろやかなタンクからリアへと直線的につながるデザインは、気品すら感じさせるものだ。これはXJR1300をはじめ、現行のヤマハのラインナップにも多く見られる特徴で、最新のXSR900にも感じることができる。美しいバイクは時代を超えて輝きを失わないんだなぁ。