皆さんはパワーバンドって言葉ご存知ですか? 以前はこのロレンスでもバイク用語の連載したりしていましたけど、パワーバンドは(多分)扱っていなかったですよね? 大雑把に言いますと、エンジンが最も効率よく力を発揮できる回転域・・・とでも言えばいいでしょうか?
パワーバンドを左右するのは、主にバルブタイミング。
皆さんも普段バイクに乗っている時、ある回転域になるとエンジンが元気になってくるな・・・という印象を覚えたことがあるのでは? 大雑把な定義ですが、バイクに搭載される内燃機は主にバルブタイミングの設定で一番トルクが出る回転数と、一番出力が出る回転数が決まってきます。
めちゃくちゃ大雑把に言いますと(苦笑)。最大トルクと最高出力が出る回転数の間が、おおよそパワーバンドです。この回転域=パワーバンドを使うのが、速く走るには有効なんですね。
なんで、最高回転数に至るまでの途中で、出力もトルクもピークを迎えるのか・・・と不思議に思う人も多いでしょう。ハチャメチャに大雑把に言いますと(失笑)、出力やトルクを稼ぐには、燃焼室の圧縮比を上げたり、設定に適した燃料を使ったり、吸気・排気バルブを大きくしたり、キャブレター(インジェクション)の口径を大きくしたり、ハイカムを入れたり・・・いろいろな手段があります。
しかし、物理の法則から内燃機関は逃れられません。チューニングエンジンの一般論ではありますが、低回転域でパワーやトルクを出そうとすると、高回転でパンチのないエンジンになったりします。逆に高回転域でパワーやトルクを出そうとすると、低回転域でスカスカなエンジンになったりします。
パワフルで、扱いやすいエンジンにするため、ソフトウェアの力に頼る。
より詳しく解説するときりがないので(手抜き?)、お題のバーチャル・パワーバンドに話を戻しますね。最近のモトGP用マシンのエンジンは1000ccで230馬力以上!というモノスゴイパワーを発生しています。
一般に、モトGPマシンのような超高出力エンジンの場合、そのトルクカーブは顕著な特徴を示すことが多いです。低回転域では「くぼみ」のようなトルクの落ち込みがある一方、その直後の回転域からは急激にトルクが立ち上がる・・・みたいな。
こういうエンジンは、非常に乗りにくいです。なぜならコーナリング中にこの回転域にあると、ライダーは安心してスロットル操作ができなくなります。ライダーは後輪へ伝わるトルクをスムーズに制御したいものですが、パワーバンドが極端に狭かったり、トルクの「くぼみ」と急激な立ち上がりのギャップが大きすぎると、安心してスロットルを開けることができないのですから・・・。
モトGPの世界で、その解決策として発展している技術が「バーチャル・パワーバンド」です。トルクの「くぼみ」に対しては、ECU(エンジンコントロールユニット)のプログラム=ソフトウェアで、インジェクションボディ内のスロットルプレートを開けて埋め合わせをする・・・。逆に急激にトルクが立ち上がる回転域ではスロットルプレートを閉じて「軟化」させます。
共通ECUで、2016年度のモトGPはどうなる?
つまり・・・昔ながらのエンジンが、カムシャフトその他の設定のみでパワーバンドが決まっていたのに対し、今のモトGPマシンのエンジンは、エンジン本来のパワーバンドに電子制御のソフトウェアによる「バーチャル・パワーバンド」を組み合わせることで、モノスゴイパワーをライダーが扱え得る速さに結びつけているわけです。
熱心なモトGPファンの多くは、「そういえば昔は派手なウィリーやスライドが多かったけど、最近はその手の派手さは影を潜め、スムーズで強烈に深いバンク角の走りが主体だな・・・」と思うでしょう。もちろん、タイヤやその他周辺技術の進化もそういう傾向の背景にはありますし、近年でもトップライダーがすんごいドリフトを披露する場合もあります。ただ、やはり電子制御が近年のモトGPのライディングスタイルの変化に及ぼした影響はかなり大きいです。
来年度のモトGPは、共通ECUが採用されることになっています(電子部品及びソフトウェア)。ホンダ、ヤマハの両ファクトリーは、この分野でライバルチームたちにアドバンテージを築いていたと目されていますが、果たして来年度はこの差が縮まって戦力の均衡の一助になるのでしょうか? 来年の開幕が待ち遠しいですね!