みなさんは“黒[ブラック]”という色にどんなイメージをお持ちだろうか。清らかな白に対する黒。勝負ごとでは白星(勝ち)に対して黒星(負け)という。この頃はブラック企業なんていう言い方にも使われて、どうやらあまりいいイメージを持つ色ではないようだ。
一方で黒は大昔から神聖な色でもあったようで、喪服が黒なのはそこからきているのであろう。物理的にみると、白は光や熱などの物質を反射し、黒はそれらを吸収するから黒いのだ。子どもの頃の美術の時間に、絵の具をいろいろと混ぜてゆくと、どんどん黒になってゆくことに気がついたり。そう考えると、黒はすべてを受け入れるとっても懐の深い色ともいえる。
ファッションの世界でも黒は特別な色だったようだ。日本を代表するアパレルブランド「コムデギャルソン」は、1982年のパリコレで黒い服を発表し「黒い衝撃」と称され世界的なブランドとなった。今ではなつかしいDCブランドブームというのも、ここから始まったように思う。この時代に多感な年代だった私にとっては、黒とファッションは同義語といえるほど強い色でもあったのだ。
今年の春に誕生したライディングウェアブランド「OVERTECH」。同ブランドのラインナップはデニムをのぞくと、これでもかってくらい黒一色で統一されている。これまでライディングウエアを含めたアウトドアファッションは、カラフルなものが多かったように思う。ライディングにおいては路上での他車からの視認性だったり、山登りやキャンピングではエマージェンシーに対して、カラフルで目立つ色が合理的だったからなのだろう。
OVERTECHはあたりまえのように思われてきた、カラフルなライディングウェアやアウトドアファッションの考え方を“黒”で塗り替えようとしている。
OVERTECHのクリエイティブディレクターである北原哲夫氏に、なぜ黒なのかと率直に聞いてみた。「ライディングウェアにも、都会的でハイセンスなデザインを導入できないかと考え、黒に統一することにしました。ブランドのイメージはアウトドアでもシティでも、スタイリッシュに過ごし遊び続けたいというものです。黒には常識を打ち破るという意味も込められています」とのことだ。
ライディング&アウトドアウェアブランドとしてスタートしたOVERTECHは、シティライフとアウトドアをクロスするアパレルブランドだ。現代は都市で働く人々がオフタイムでバイクに乗り、キャンピングやフィッシング、サーフィンなどを楽しみ、思いおもいの生き方を楽しんでいる。そんなライフスタイルにオン・オフの垣根を越えてクロスするスタイリングを提案している。
北原氏の愛車である古いフォードのホットロッド、オールドスタイルのキャンピングやサーフィンといったアイコンは、過去と現在やオンとオフのクロスオーバーを表現しているのか。それはOVERTECHがゴアテックスといったハイテク素材だけではなく、天然素材に強いこだわりを持っていることにも表れている。インナーウエアには高品質のメリノウールを使用し、またボトムスのデニムは、ヘビーオンスの極厚生地も織れるよう改造した日本でも数台しかないと言われるシャトル織機を使って織られている。
また、OVERTECHが考えているライディングウェアはとても機能的なものだ。ライディング時の温暖から寒冷や雨天といった環境変化に、レベ1からレベル4というレイヤリングシステムを導入している。これはバイクと同じようにプロダクトに近いところから発想していて、OVERTECHではウェアを“ギア”と捉えているのだという。
北原哲夫氏は雑誌SENSEをはじめ、様々なアパレルブランドのクリエイティブディレクションを手がけてきた。「OVERTECHは天然素材などのこだわりはもちろん、動きやすい動体裁断(4D)を導入してライディングのストレスを軽減しています。今回の展示会ではドゥカティ スクランブラーが、OVERTECHのコンセプトに共感していただき、ポップアップに参加してくださいましたが、今後はOVERTECHがイメージするカスタムバイクもビルドしてゆきたいですね」
ハードなデザインからは想像もできないほど着心地のいいOVERTECHのウェアは、ライディング自体はもちろん気温や天候の変化にも対応でき、疲れやストレスを感じないように設計されている。さらにライダーのオンとオフのタイムマネジメントをクロスするという提案により、日常のあらゆるストレスから解放し、着る人の生き様も織り込もうとしているのかもしれない。
※先日、開催された展示会「OVERTECH Vol.2 EXHIBITION」の模様はこちら。