【出光イーハトーブトライアル大会】そうだ!トライアルをやってみよう[前編]はこちら
出光イーハトーブトライアル大会の歴史は1977年にさかのぼる。1909年にスコットランドで初開催された、トライアル競技の創始ともいえる、SSDT(スコティッシュ6日間トライアル)の精神をとりいれた伝統的なトライアル大会だ。その起こりは、大会会長の万澤康夫氏と副会長の成田省造氏が1973年にSSDTに出場し、その魅力に触発され、環境のよく似た岩手で開催したのがはじまりだという。
私の世代ではイーハトーブトライアル大会といえば、よくバイク雑誌などで目にした有名な大会で、オフロードバイクに乗り始めた高校生の頃は、雄大な自然を背景にして超人的なテクニックを競う、憧れのモータースポーツ大会であり、ケニーロバーツが闘っていた世界グランプリなどと同じように、手の届かないものとして眺めていた覚えがある。なのでその憧れの舞台に、まさか自分が立つことになろうとは想像もできなかったのだ。
私はそんな先入観にとらわれていたのだが、実際にエントリーしてみるとトライアル初心者にも実にオープンで、大会実行委員会の方をはじめ参加者の方たちもとてもフレンドリー。期待と不安で胸をいっぱいにして、東北道をはるばると北上し会場に到着した私たちは、岩手の大自然につつまれた清々しい空気もあいまり、この伝統的なトライアル大会を心から楽しもうという気持ちに変わるのに時間はかからなかった。
出光イーハトーブトライアル大会は、自動二輪免許があれば特別なライセンスなどは必要なく、大会の主旨に賛同しトライアル競技に出場できる“ある程度の技量”があれば、誰でもエントリーできる。出場クラスは大きく「ネリ・ブドリ」と「クラシック・ヒームカ」というクラスに分かれている。
ネリ・ブドリは安比高原からスタートし、ゴールまで約100kmの行程を移動しながら、山中に設定された十数カ所のセクションにトライし1日で終了する。クラシック・ヒームカは安比高原のある八幡平をスタートし、ほぼ北緯40°のラインを東へ向かい譜代浜という海岸にいたり一泊し、2日目は別ルートで八幡平へ戻りゴールするという、およそ270kmの行程。こちらはクラスにより1日あたり10〜20セクションが設定されている。いずれも「ネリ」「ヒームカ」クラスは初心者でも挑戦できる内容となっている。
大会には競技以外のプログラムも用意されている。トレイルバイクでも参加できる「観戦トレイルツアー」は、クラシック・ヒームカの行程をなぞるように走り観戦できる同伴付きツアーだ。大会開催中にしか走行できない、雄大な自然の中を自ら走って観戦できる。また、トライアルバイク限定だが「トライアルレッスンツアー」は、ネリ・ブドリのエリアをベテラン講師とともに走り、練習しながらツアーする。いずれも、競技はちょっとという方でも、イーハトーブトライアル大会の素晴らしさを体験できる魅力的なものだ。
イーハトーブとは岩手出身の作家・宮沢賢治が生んだ「理想郷」をあらわす言葉だ。イーハトーブトライアル大会はまさにライダーにとって、理想郷のひとつなのではないかと思わせる素晴らしい大会だ。トライアル競技だから、もちろん己の技量を試して順位を競うという前提はあるものの、日本ばなれしたこれほど大きな自然を、バイクに乗って感じられるのは他では得られない体験だと思う。
最上位クラスであるクラシック・クラスでは、バイク1台が通れるほどの獣道にも分け入って移動してゆく。そこはまるで精霊が棲んでいるかのような、静謐な森の気が漂っている。スキー場のある山を駆け上がった先は、天空のセクションというにふさわしい雄大なパノラマが広がっている。そしてなにより一般道の移動区間では、地元のお年寄りからチビッコまでが、参加しているライダーたちに声援を贈ってくれ、水分補給や冷えたスイカをふるまってくれるポイントもあるのだ。
宮崎駿が天空の城ラピュタで描いた風景を思わせる大空の下で、どこまでも続く森と山々を舞台にしたトライアル大会。想像していたよりもハードルの高いものではないし、トライアル初心者でも参加できるのだ。とはいえ、8月末の岩手という開催地と、出場するにはそれなりの準備が必要で、おいそれと参加できるものではないのも現実だろう。
岩手はツーリングスポットとしても素晴らしい。出光イーハトーブトライアル大会は、一般道の側に設定されたセクションがいくつもある。今週末に岩手へツーリングに出かけるのであれば、その観戦も取り入れてはどうだろう。そして、トライアルというスポーツにもぜひチャレンジしてみてほしい。バイクという乗り物の楽しみ方がひろがるばかりか、その先にはイーハトーブという素晴らしい体験も用意されているのだ。
※写真は2013年出光イーハトーブトライアル大会のものです。