先日、「モーターサイクル動物園? その1 英車編」という記事を書いた後、しばらく「何か書き忘れた動物名由来のモーターサイクル名あったよな・・・」と、しばらくモヤモヤしておりました。あ! そういえば、これ忘れてた! と思い出したのが、「コーギー」という名のヘンテコモーターサイクルです。

第二次世界大戦後の1946年創立のコーギーモーターサイクル社から、1948〜1954年の間に販売されたのが、このユニークな2ストローク98cc搭載車です。

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画像: モーターサイクル動物園? その1 英車編 - LAWRENCE(ロレンス) - Motorcycle x Cars + α = Your Life.

モーターサイクル動物園? その1 英車編 - LAWRENCE(ロレンス) - Motorcycle x Cars + α = Your Life.

モーターサイクルのネーミングには、動物由来のものが数多くあります。最近は商標で使えるネーミングが枯渇気味なので、マトモ?な英語名とかはほとんどネーミングに使えなくなってしまったこともあり、もっぱら古いモーターサイクルばかりになってしまいますが・・・。今回はそんな動物由来の名前を持つ英国車をアレコレ集めてみました。
トライアンフは動物ネタ多し。
1940年型トライアンフT100タイガー。OHVバーチカルツイン500ccの5Tのスポーツバージョンとして登場しました。その名はかつての単気筒モデルから使われており、現在でもタイガー・エクスプローラーXCなどのモデルに受け継がれている息の長い名称です。
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1950年型トライアンフ6Tサンダーバード。ついつい雷鳥・・・と思ってしまいますが、サンダーバードというのはネイティブアメリカン(インディアン)の伝説の鳥で、雷を操る巨大な神鳥のことです。
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1955年型トライアンフT20タイガーカブ。カブとは獣の子供のことで、この場合は子虎ということですね。ちなみにトライアンフにはそのほか、ティグレス(メスの虎)というスクーターもありました。
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英車はいろいろメーカーがあるので、取り逃がした動物もあるかも・・・。
1949年型BSAバンタム。タンクマークにも描かれていますが、バンタムとは矮鶏のことです。独DKWのRT125のコピーモデルのひとつの、2ストローク125cc単気筒車です。そのほかBSAの鳥ネタには、ファイアーバード・スクランブラーなどもありましたね。
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1967年型BSA A50ワスプ。ワスプとは大型の蜂のことで、ワスプの兄弟車にはA65Hホーネット(スズメバチ)というのもありました。灯火類を標準装備しない、コンペ用のOHVツインモデルです。
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昆虫ネタ続きで、こちらは1955年型ダグラス・ドラゴンフライ。つまり、トンボということです。戦前、クランクシャフト横置きのフラットツインの名車を数多くリリースしたダグラスですが、戦後はBMWタイプのクランクシャフト縦置きのモデルを作りました。
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1927年型スコット・フライングスクイレル。水冷!2ストローク並列ツインという、ユニークなモーターサイクル造りにこだわったスコットの代表的モデル。その名前は、ムササビを意味します。飛ぶように速い!モーターサイクルだったのは事実です?
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ブランド名に動物の名を用いた例の代表が、パンサーです。スローピング(前傾)単気筒が特徴で、サイドカーユーザーに好まれたブランドでもありました。写真は1936年型パンサー100(600cc)です。
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名門マチレスの1931年型シルバーホーク。600ccのOHC・V4エンジンというハイメカニズムを奢った、時のスーパーバイクでした。縦置きクランクで、4つのシリンダーが左右に広がる様を羽に見立ててのネーミングだったのかも知れませんね。
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トライアンフのタイガーに比べるとマイナーですが、ちゃんとライオンもおります。こちらはサンビーム・ライオン。サイドバルブ式単気筒600ccのモデルでした。
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1959年型ベロセット・バイパー(350cc)。500ccのベノムとともに、ベロセットは戦後型のOHV単気筒スポーツモデルに毒蛇の名前を好んで与えていました。
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最後に変わりダネをふたつ・・・。
1954年型AJS E95ポーキュパイン。このニックネームはヤマアラシという意味です。4ストロークDOHC2気筒エンジンに与えられたおびただしい数の冷却フィンが、ヤマアラシのトゲに似ていたことからの命名でした。
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こちらは初期型ポーキュパインE90のDOHCツインエンジン。後期型のE95よりも、こっちの方がより「ポーキュパイン」らしい?ですね。
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こちらは1953年、ノートンファクトリーライダーとして活躍したレイ・アムが乗る通称「プロボスシス」。その名前は昆虫の吻(前方に突出した口など)や(長い)鼻を意味しています。前方に大きく伸びたアルミ製のフェアリング形状から、このように呼ばれることになったわけです。
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なんか他にもいろいろ動物ネタ・ネーミングの英車あるような気がしますが、疲れたのでこれくらいでカンベンしてください(苦笑)。その2・・・については、気が向いたら取り組みます(苦笑 part.2)。

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名前はカワイイですが、そのルーツは第二次世界大戦の兵器にありました。

画像: ちなみにこちらがウェルシュ・コーギー犬。胴長で短足の姿が、コーギー・モーターサイクル社の製品のイメージにぴったりです。 www.dogwallpapers.net

ちなみにこちらがウェルシュ・コーギー犬。胴長で短足の姿が、コーギー・モーターサイクル社の製品のイメージにぴったりです。

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戦争に勝利はしたものの激戦で疲弊した英国にとって、戦後の復興は困難な道のりでありました。そんな英国の戦後復興の「足」としてコーギーは愛用され、27050台が製造販売されたと言われています。ユーモラスかつ愛らしいルックスを持つコーギーですが、じつは1942〜1945年の間に、兵器として生産されたエキセルシャー・ウェルバイクをルーツとしていたのです。

投下用のケースに収納された状態のウェルバイク。

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英国の「ステーションⅨ」という、SOE(特殊作戦執行部)の開発チームの下で企画されたウェルバイクは、空挺部隊のパラシュート兵の地上での「足」になることを目的にした乗り物でした。航空機からパラシュート兵を降下させるとともに、ケースに収めたウェルバイクを投下。着地したら、ケースからウェルバイクを取り出し、速やかに組み立てる・・・。徒歩で移動するよりも、ウェルバイクに乗って移動する方が、はるかに機動力に優れる・・・という算段でした。

画像: ウェルバイクの折りたたみ式ハンドルを起こし、走行可能な状態にする兵士たち。 bcoy1cpb.pacdat.net

ウェルバイクの折りたたみ式ハンドルを起こし、走行可能な状態にする兵士たち。

bcoy1cpb.pacdat.net

ノルマンディー上陸作戦にも使われたみたいですが・・・。

ウェルバイクと英国軍兵士たち。戦場という緊迫した場面ですが、ウェルバイクのユーモラスな姿が浮いて見えてしまいます。

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3600台余が生産されたウェルバイクですが、結果から言えばその兵器としての有用性は???でした。パラシュート兵の機動力を強化する・・・というコンセプトは良かったと思いますが、当時の欧州の戦場は都市部を除けばほとんど足場は泥々・・・というのが実情でした。ビリアース製2ストローク98ccの非力なエンジン、そして前後に履く小径タイヤ・・・およそ不整地の走破能力に優れているとは言えないウェルバイクは、実際はパラシュート兵の「足手まとい」だったようです。つまり、不整地で役に立たないウェルバイクの車上で難儀するくらいなら、自分の足で移動したほうがマシ・・・ということです。

じつはウェルバイクよりも大きな排気量(126cc)で、同じようなコンセプトのモーターサイクルが、当時のロイヤル・エンフィールド社でも開発されていました。WD/WE「フライング・フリー」というモデルは、ウェルバイクよりはパワフルでホイールも大きく、不整地で実用的だった・・・と言われてます(なおフリーとは虫の、蚤のことです)。ちなみにパラシュート兵の「足」としての投下用モーターサイクルは、英国軍だけでなくイタリア、ドイツ、そしてアメリカ軍でも開発していたそうです。

ウェルバイクの32kgよりは重いですが、59kgのフライング・フリーは軽量と呼ぶには十分なスペックでした。

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優れた兵器になれないことは、恥ずべきことではない・・・と思うのです。

軽量コンパクトにこだわったのは良いことなのでしょうが、戦場の荒地では走破性不足だったウェルバイクは、兵器としては「企画倒れ」だったと言えましょう。まぁ、ウェルバイクに限らず、兵器としてのモーターサイクルなどの2輪車は大したことのないもの・・・というのが現代の常識です。戦中はドイツ軍のBMW R75サイドカーなど、様々な種類が開発された軍用モーターサイクルですが、実戦の場で4輪ジープの圧倒的な軍用車両としての優秀さが実証された後には、すっかり開発対象としてはマイナーな存在となってしまいました。現代では、斥候用のモーターサイクルが各国の軍隊でわずかに残っているのが実情です。

ある意味、戦争用の兵器というジャンルにおける「文明」の利器として、モーターサイクルは失格の烙印を押されたのが第二次世界大戦期でした。もっとも優れた兵器にならないことは、モーターサイクルを愛する人にとって、嘆くことではないと思います。人の役に立つ(たとえそれが戦争でも)モノを「文明」寄りと定義し、人の役に立つかはわからないけど、人生を豊かに彩るモノを「文化」寄りと定義した場合、一部のコミューターを除くモーターサイクルは明らかに後者に属するモノなのではないでしょうか? この仮説の是非はともあれ、平和な時代だからこそ私たちは趣味としてのモーターサイクルを楽しめる・・・のは確かです。

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