唐突ですが、「マルシン出前機」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。「マルシンハンバーグ」だったら、40代以上の読者は懐かしく思い出すことでしょう。でも、マルシン出前機という名前にはピンと来ないかもしれません。
「マルシン出前機」とは、出前のスーパーカブの荷台でゆらゆらしているアレです。以前ほどは見かけなくなりましたが、昔は出前といえばスーパーカブと決まっていて、その荷台には必ずこの「マルシン出前機」が付いているものでした。
卓越した振動吸収性。X-TRAILとの勝負の行方は・・・
その構造は、基台に固定されたフレームの上部に空気ダンパーのサスペンションが付いており、そこから吊るした荷台に寿司桶や岡持ちを置くようになっいるというもの。このサスペンションが走行時の揺れや衝撃を吸収してくれるのに加え、荷台が振り子のように大きく揺れることで旋回時の遠心力も克服。安定走行を実現する優れ物なのです。
その振動吸収性能の高さを物語っているのが、昨年公開された日産X-TRAILの走行安定性を実証するプロモーションムービー。X-TRAILの荷室と、バイクに装着したマルシン出前機の両方に水の入ったビーカーを設置し、悪路を走行実験するというものです。この勝負では残念ながらX-TRAILに軍配が上がるのですが、こうして取り上げられるということ自体が、その能力が高く評価されている証明といえるでしょう。
用途によって4つのバリエーション
このマルシン出前機、実は様々なバリエーションがあるんです。まず日本そば・一般食堂用の「1型」。丼や皿を載せたお盆を重ねて出前することを想定して設計されています。お盆は何と4段重ねまで対応! ちょっと怖いような気もしますが、蕎麦を両手に抱えて自転車に曲乗りしていた時代を考えれば、これでもスマートな出前スタイルだったのかもしれません。
そして寿司店・魚店用の「2型」。木製の岡持桶を取り付ける設計です。そして中華・レストラン・食堂用の「3型」は、金属製の岡持箱を取り付けるバージョン。片側だけにぶら下げるタイプと、左右両側にぶら下げるタイプ、中央に一つだけ吊るすタイプの3種類が存在します。左右にぶら下げるタイプは重心も低く安定性は良さそうですが、横幅を取るので注意して走らないとぶつけてしまいそうですね(笑)。ちなみに「4型」は存在せず(時代を感じさせますね)、あとは自転車用の「5型」があるそうです。
東京オリンピックでのエピソード
Wikipediaによると、1964年の東京オリンピックの聖火リレーにおいて、予備の聖火を運ぶ手段としてこのマルシン出前機が使われたんだそうです。聖火ランナーを追走する乗用車の後部座席に設置され、日本全国7,000キロのリレーを伴走したんだとか。その出前機が秩父宮スポーツ博物館に聖火ランプとともに保存されているというのも微笑ましいエピソードですね。
日本の出前文化を支え続けてきたマルシン出前機。最近では、スーパーカブによる出前よりもジャイロによるデリバリーが主流となり、目にする機会も少なくなりました。もし街で見かけたら、その雄姿に注目してみてください!