いま、世界的にカフェレーサーというバイクのファッション文化が流行の兆しをみせている。これは日本でも多くのカスタムショップが手がけているスタイルで、欧米のメーカーではカフェレーサーをイメージした完成市販車を販売する傾向も強まっている。
カフェレーサーといえばやはりセパハンだろう。この絞ったタイトなライディング・スタイルに1960年代の英国の若者たちは、公道レースであるマン島TTレースなどに思いを馳せたのだろうと思う。そもそもこのハンドルをセパハンと呼ぶのは私のような年代だけかもしれない。今の若い人たちにとってはこのハンドルはすでに一般的で珍しくもないだろうから。
画期的なデザインで登場したGSX1000Sで時代が変わる
私がバイクに乗りはじめた1970年代の大型バイクはCB750やZ2といった、コンサバティブなスタイルのバイクがまだ主流の時代で、1980年にケルンショーで発表されたSUZUKI GSX1000S 刀の登場はまさに衝撃的だった。工業デザイナー、ハンス・ムートによる画期的なデザインもさることながら、私たちが夢中になったのはその未来的なデザインに不可欠だったレーサーを思わせる低い姿勢の「セパハン」なのだった。
●海外輸出仕様のGSX1100S
革新的なデザインのカタナはもちろん世界中で賞賛されて、日本でも1982年に当時の国内販売される大型バイクは750ccまでという業界自主規制の枠の中で国内向けに販売される。しかし国内販売されたGSX750Sは、その美しいデザインを破壊するかのように大きくアップライトに変更されたセパレート・ハンドルが採用され、たかだかハンドルだけの変更にも関わらず、おせじにも美しくないデザインとなってしまったのだった。
●国内販売されたGSX750S
セパハンを取り締まる刀狩り
この頃は、まさに高校生にバイクに乗らせないようにする「バイク3ない運動」に代表されるように、世間的にもスポーツバイクに対する評価は必ずしもよくはなかった中で発売されたGSX750Sは、日本のバイク乗りをがっかりさせたのは言うまでもない。この当時当然のことながら、この750カタナに欧米で発売されたGSX1100Sと同じセパハンに交換するのが大流行したが、この時代は大音量の集合管と同様に、セパハンなどに変更する改造は警察も特に神経をとがらせていて、カタナ人気への取り締まりは「刀狩り」といわれて、集中的に行われた感があった。
セパハンでセンスのいいバイクライフを楽しもう
その後も人気を保ち続けたカタナは、国内でリッターバイクの販売が解禁されるなど、時代の変化に伴い本来の低いセパハンで販売されるようになったし、いまではMotoGPマシンがそのまま公道を走っているかのようなスーパースポーツが各社のフラッグシップとして全盛となっているけど、つい30年ほど前のバイク乗りはこれほど「セパハン」に憧れと思い入れをもって、違法な改造と知りながら自らのバイクをカスタムしていたのです。いまはセパハンのバイクを咎める白バイ隊員もいないと思うので、このようなドレスアップを思う存分楽しめるようになった。かつての「刀狩り」がなくなったいま、カフェレーサーを気取ってセンスのいいバイクライフを楽しみたいものだ。
カバー写真:Takefumi Hama