年末の恒例企画、Lawrenceが独断と偏見? で選んだ、2025年の2輪業界にまつわる10大ニュース(順不同)。1982〜2002年の「YZR500」以来となる、ヤマハ製最高峰クラス用V4エンジン搭載車が、2025年9月14日決勝のMotoGP第16戦サンマリノGPでデビューしました。長年MotoGPを並列4気筒エンジンで戦ってきたヤマハとしては大転換となるエンジンレイアウト変更となりますが、何がこの決定の背景にはあるのでしょうか?

すでに、2026年シーズンはV4で戦うことを発表済みです

サンマリノGPで、ヤマハファクトリーのV4版YZR-M1プロトタイプを託されたのは、テストチームのアウグスト フェルナンデスでした。決勝は22番グリッドからスタートし、序盤で19番手まで浮上。しかしながら、フライング裁定によりダブル・ロングラップ・ペナルティーが課され後退を余儀なくされます。

もっともV4プロトによる参戦の目的は、MotoGPの場でレースディスタンスを走り切りデータを取得することで、それに関してはしっかりフェルナンデスは仕事をやり切り、完走14位という結果で記念すべきV4エンジン搭載車初MotoGPポイントとなる2点と獲得しています。

2025年9月に開催された第16戦サンマリノGPで、ヤマハYZR-M1プロトタイプを走らせるA.フェルナンデス。21世紀のヤマハ製V4による初の実戦は、トップから1分01秒504差の14位という結果でした。

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フェルナンデスは10月の第20戦マレーシアGP(23番手スタート、決勝18位)、11月の最終戦(第22戦)バレンシアGP(23番手スタート、決勝16位)でも、サンマリノGP同様にV4プロトでワイルドカード出場。3つの決勝でV4を3回完走させたわけで、テスト役のフェルナンデスとしては最高の仕事をしたといってもいいでしょう。

2025年シーズン最終戦バレンシアGPで、V4版YZR-M1プロトを駆るA.フェルナンデス。無事完走し、トップから36.854秒差の16位というリザルトを残しました。

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バレンシアGP決勝の11月16日、ヤマハは2026年シーズンよりV4搭載車を主戦モデルとし、並列4気筒によるレースはバレンシアGPが最後・・・と公表しました。並列4気筒のYZR-M1は2002年から2025年の間、429のグランプリに出場。そのうちの125のレースに勝利し、表彰台登壇は350回以上。8つのライダータイトル、7つのチームタイトル、5つのメーカータイトル、そして5つのMotoGPトリプルクラウン(三冠)を獲得しています。

A Heartfelt Message from the M1

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V4採用の最大の理由は、近年のトレンドである空力?

ヤマハの方針変更により、2026年シーズンよりMotoGPに参戦するすべてのマシンはV4エンジンを搭載することになります。しかしどうして、ヤマハは並列4気筒のままではダメ・・・と考えるに至ったのでしょうか?

並列4気筒のYZR-M1によるMotoGP初タイトルは2004年、不等間隔燃焼のクランクシャフトを採用を採用した年でした。990cc時代はV.ロッシが2度制覇(2004、2005年)、800cc時代はV.ロッシが2度(2008、2009年)、J.ロレンソが1度(2010年)、2012年以降の1,000cc時代はロレンソが2度(2012、2015年)、H.クアルタラロが1度(2021年)それぞれタイトルを獲得しています。

クランクピン180度の等間隔燃焼から、90度の不等間隔燃焼の、いわゆるクロスプレーン型クランクシャフトを採用した2004年型YZR-M1(0WP3)。

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MotoGPファンには周知のとおり、2022年以降はF.バニャイアが2度、J.マルティンが1度、そしてM.マルケスが1度と、2025年度までドゥカティがタイトルを独占する黄金期を築いています。一方ヤマハのエースであるクアルタラロは、2022年第10戦ドイツGPを最後に優勝から遠のいています。

並列4気筒よりクランクシャフト長が短く、それを支持するメインベアリング数が並列4気筒より少ないため、V4エンジンは超高回転域でのクランクシャフトの捻り剛性で優位とされています。そのあたりが不利と判断して、他のライバルと同じV4にしたのかな・・・? と思ってしまいますが、ヤマハの11月16日の発表内容を見る限り、そこはおそらく問題にしていないようです。

V4への移行は、ヤマハのパフォーマンスと革新の追求における重要なマイルストーンです。新しい構成は、加速の改善、ブレーキング時のハンドリングの改善、および最新のタイヤと空気力学の要件への適応性の向上を提供することが期待されています。2025年シーズンの迅速な開発プロセスは、その遺産を尊重しながらMotoGPテクノロジーの最前線に立つというヤマハのコミットメントを反映しています。

加速および制動時のハンドリングの改善、タイヤと空力の適応性向上・・・がV4移行への動機、と発表内容からは読むことができます。クアルタラロは2025年型YZR-M1の不満点として、リア側のグリップ不足、レース後半のタイヤ摩耗増大などをあげていますが、これらを解消するために並列4気筒からV4へ移行する・・・と考えられます。

近年のMotoGPで注目されている空力ですが、私たちはついつい空力というと、フェアリングやウイングレットなどのパーツ形状という「見た目」ばかりを気にしてしまいます。しかし空力とは、フェアリングの内側の流れ・・・を含めてのものです。

そのあたりでドゥカティをはじめとする、機関部の左右幅が少ないV4勢は有利という考えから、ヤマハ開発陣は並列4気筒を諦める判断をしたのかもしれません。動力性能的なエンジンの話というより、空力を含めた車体パッケージの一要素としてのエンジンの話なのでしょう(無論、動力性能も大事ではありますが)。

なお、ヤマハファクトリーレーシングテクニカルディレクターであるマッシモ バルトリーニは、「V4構成への移行は戦略的にも重要で、2027年の技術規定を見据えた布石となります。このエンジンレイアウトは、バイクのレイアウトや空力開発の面で優位性をもたらすでしょう」とコメントしています。

2025年11月18日、バレンシアでV4版YZR-M1をテストするF.クアルタラロ。2026年シーズンに向けての戦いは、すでにスタートしています。

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バルトリーニのいう「2027年の技術規定」はその年から導入される、850cc / 75mmピストンボアのMotoGP新ルールを指しています。そもそもヤマハは新ルールに合わせてV4を試作していましたが、並列4気筒のYZR-M1の不振から前倒しするかたちで2025年の投入を決めています。

先述のとおり2026年シーズンから参戦マシンがすべてV4になるといっても、2022〜2025年の結果が示すとおりV4を搭載する車体作り、空力の活かし方でドゥカティはライバルたちを圧倒しているのが近年のMotoGPです。ドゥカティ勢の牙城を崩す一番手に、ヤマハのV4番YZR-M1がなれるかどうか? シーズン開幕前の、オフシーズンのテストから要注目ですね!