先日、日本のホンダとヤマハ、そしてオーストリアのKTMグループとイタリアのピアッジオグループが、電動バイクなどに使う交換式バッテリーのコンソーシアムを設立することが報道されました。この電動バイクの普及を加速させることになるであろう試み・・・今後どのような展開を見せることになるのか、注目です!

コンソーシアムのお話は2019年にもありましたけど、そのときは日本4社でした

よほど電動バイクに関心がある人でないと覚えていないかもしれませんが、電動バイクの普及を促進させるためのひとつの手段として、交換式バッテリーおよびバッテリー交換システムの標準化・・・を目的とする「電動二輪車用交換式バッテリーコンソーシアム」の創設は、2019年4月に発表されています。

そのときは、ヤマハ発動機株式会社、本田技研工業株式会社、川崎重工業株式会社、スズキ株式会社の国内4メーカーが協働する・・・というお話でしたが、先日・・・3月1日に発表された今回のコンソーシアムは、ヤマハ発動機株式会社、本田技研工業株式会社、KTM AGおよびPiaggio & C SpAが参画するということで、カワサキとスズキの名はここにはありませんでした・・・。

もっともホンダ、ヤマハ、カワサキ、スズキが属する日本自動車工業会・二輪車特別委員会は、昨年9月から大阪大学のキャンパスがある大阪府北部(吹田市、豊中市、箕面市)地域で電動バイクの実証実験を行っており、国内4メーカーのコンソーシアムは別の路線で継続しているということなのでしょう。

一方、今回の日欧4大メーカーによる交換式バッテリーのコンソーシアムは、電動バイクおよび小型電動モビリティ(EC=欧州連合・UNECE規格に基づく車両区分で、Lカテゴリー=軽車両に属する電動2輪、3輪、4輪)を対象とし、2021年5月の正式設立を予定しています。

 今回のコンソーシアム創設合意は、パリ協定および欧州域内におけるモビリティの電動化の加速が背景にあります。コンソーシアム創設に合意した4社は、標準化された交換式バッテリーシステムにより、小型電動モビリティの普及および、より持続可能な交換式バッテリーのライフサイクル管理に貢献できると信じています。また、バッテリーの共通化により、航続距離の伸長や充電時間の短縮、インフラコストの低減や車両コストの低価格化が期待できると考えています。
 コンソーシアムの目的は、小型電動モビリティ向けに交換式バッテリーシステムの技術仕様を定義することです。関連団体、各国、欧州、および国際標準規格化団体との緊密な連携により、欧州域内および国際的な共通規格の取得を目指します。

リース専用車としてホンダが用意する「PCX ELECTRIC」の着脱式モバイルパワーパック。リチウムイオン電池のモバイルパワーパックを動力用電源として2個を使用する方式で、モバイルパワーパックは1個あたり電圧48V、重量約10kgという諸元です。

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コンソーシアムの創設で、電動バイク普及は加速する!?

今回のコンソーシアムはホンダとヤマハ、そしてハスクバーナなどのブランドを擁するKTMグループとアプリリアなどのブランドを傘下におくピアッジオグループが協働するわけですが、これら4つの世界的大メーカーが、交換式バッテリーの"世界標準"を生み出すために団結するのですから、このコンソーシアムは電動バイクの発展を爆発的に加速させる起爆剤になるかもしれません!

今、すでに世の中にはスクーター的な都市型コミューターから大型スポーツバイクタイプまで、様々な電動バイクが各メーカーから発売されています。しかし現段階では既存のICE=内燃機関搭載車に比較して、バッテリー容量やその充電方式や充電に要する時間などの使い勝手etc. そしてコストパフォーマンスなど、ICEを超える利便性を例示するまでには至っていないのが現実でしょう。

日本では3,493,600円(税込)で販売されている、ハーレーダビッドソンの電動バイク「ライブワイヤー」。市街地で235km、高速道路では152kmの走行が可能です。

www.harley-davidson.com

電動バイクが既存のICEにとって代わる存在になるためには、まず業界で標準化されたバッテリーを用意し、その交換をICEの給油作業並みに気軽にできるようにするなどの、社会的インフラ構築と低コスト化が必要最低限の達成すべき条件になるでしょう。

日欧4大メーカーによるコンソーシアムによって作られる標準化バッテリーの、理想のイメージとしては・・・家電で使う乾電池を近所のコンビニで購入して気軽に交換する、みたいな感じでしょうか? しかし乾電池が発明されたのは1896年で、1907年にはAA(単3)、1911年にはAAA(単4)の規格が生まれましたが、それらが広く普及するには結構な時間を要することになってしまいました・・・。

乾電池の規格で一番最初に生まれたのは、1898年のDセル(単1、写真左)でした。

ja.wikipedia.org

また日欧4大メーカーが標準化バッテリー制定という大事業を成し遂げたとしても、他のメーカーがその流れを受け入れないと普及の速度が鈍化することになることが予想されます。

4輪に目を向けると、現在4輪電動化のリーディングカンパニーである「テスラ」も、かつてはメーカーの枠を超えて交換可能なバッテリーを規格化し、それを簡便に交換できるサービスステーション網の構築を考えていました。

しかし各メーカーの思惑や、様々な種類の4輪車に共通して使える標準化バッテリー制定などの技術的問題もあり、現在では4輪用標準化バッテリーという構想は頓挫した状態となっています。バッテリー交換方式を掲げて注目を集めていたベンチャー企業、ベタープレイスの2013年の破綻も、標準化バッテリー制定の難しさの証左のひとつ・・・といえるでしょう。

EV先進国である中国の新興企業のNIOは、2020年にバッテリーサービスのサブスクリプション事業を立ち上げ注目を集めました。ただし電動4輪用標準化バッテリーの座を掴むためには、中国以外にもコンソーシアムを組むパートナー企業がある程度集結しないと、ワールドワイドな展開は難しいと思われます。

ホンダPCX ELECTRICの、シート下スペースにおさまる脱式モバイルパワーパック。

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どのような未来を日欧4社のコンソーシアムが描くか・・・注目したいです!

今回の日欧4社によるコンソーシアムは、政治的思惑の色が濃い4輪業界に比べると足の引っ張り合いは比較的少なく、より効果的に進むのではないか・・・と期待できます。

そう考える理由は、すでに4社ともそれぞれ電動化モデルを商品としてラインアップしており、それを市場で販売してきた実績から蓄積したノウハウを、それぞれが持ち寄ることが可能だからです。ヤマハの場合、人気ある某テレビ番組で有名になった「E-Vino」という電動スクーターがありますが、台湾では2019年から販売している「EC-05」という電動スクーターが、ワールドワイドに注目を集めています。

ヤマハブランドの車両として、現地法人ヤマハモーター台湾の販路を通じて販売されている「EC-05」。

global.yamaha-motor.com

台湾のGogoro社との協業で開発された「EC-05」は、Gogoro市販車のプラットフォームをベースにヤマハがデザインした製品です。Gogoroは、Gogoroエナジーネットワーク社により台湾国内に現在2,000ヶ所以上のバッテリー交換ステーションである「GoStation」を運営。少額の料金で、即座にバッテリーを交換できるのがそのサービスの特徴です。

そしてホンダは「PCX ELECTRIC」のほか、「BENLY e:」シリーズなどの電動バイクをすでにリースや法人向け販売しています。また2017年にはハンディータイプ蓄電機の「LiB-AID E500」を発売していますが、ホンダはバイクや農機などのパワープロダクトなどにも使える共通バッテリーパックを、近い将来具現化すべき構想としています。

ホンダのハンディータイプ蓄電機「LiB-AID E500」。なおホンダは2021年2月よりカーボンニュートラル社会構築の一助となる活動として、PCX ELECTRICなどの電動バイクやLiB-AID500のリチウムイオン電池引き取りシステムをスタートしています。

www.honda.co.jp

ピアッジオグループは2018年にベスパスクーター電動版エレットリカを発売。そしてKTMは電動E-RIDEをラインアップしています。欧州の雄である両メーカーともに、バッテリーパックのノウハウはすでにバッチリ持っています。

伝統あるベスパスクーターの電動版「エレットリカ」。

www.piaggiofastforward.com

KTMの電動オフロードバイク、フリーライドE-XC。110分でフル充電。75分で80%まで充電が可能です。

media.ktm.com

三人寄れば文殊の知恵・・・と言いますが、4社寄れば"もっと"文殊の知恵! を導き出すことが可能かもしれません。一方で、船頭多くして船山に・・・というコトワザもありますけど・・・(苦笑)。ともあれ、日欧4大メーカーによる「交換式バッテリーシステムの技術仕様」が制定され、それぞれのメーカーから魅力ある電動モデルたちが登場する近い未来を、楽しみに待ちましょう!