余計なものを削ぎ落し、限られた要素でより豊かに、より自由に過ごす "ミニマルライフ" や "断捨離" といった考え方が広く社会に紹介されたりする昨今ですが、モーターサイクルでのスピードレース系カテゴリーにおいても、1周150m 程度の極小オーバルで、ほんの10馬力しかない軽量マシンを全開で振り回す、いわば "タイニー (ちっちゃな)・ダートトラック" には、道具を使うスポーツの楽しさや魅力のほとんどすべてが揃っているといっても過言ではありません。というわけで本日は、"これからあなたがちっちゃなダートトラックに注目するべき4つの理由" についてお送りしましょう!

1.ちっちゃなマシンとオーバルトラックは "強いライダー" を育てるのに最適です。

WELCOME RACE FANS!! ダートトラックライダー/FEVHOTSレースプロモーターのハヤシです。モーターサイクルをそのマシンとコンディションの許す、限界に近い領域でまるで手足のように操り、ライバルと駆け引きすることができたなら・・・。多くのライダーがおそらくは時に願うことかと思いますが、まさかそれを日々ストリートで実践するわけにはいきません。では、ダートトラックというフィールドではどうでしょうか?

大丈夫、転んでません。限界ギリギリのバンク角。体幹の捻り・ヒジとヒザの位置関係を参考にしましょう。

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どんなに振り絞ってもほんの10数馬力・重くても100kg少々のマシン。滑りやすい路面とそれを制するためのいくらかの体力・冷静な判断力とライディング理論。二つのストレートと二つのコーナーで構成された、最低限の要素の反復練習の場。なによりもモーターサイクルを "フルバンクしたまま横向きに走らせる" という、ダートトラック以外では得られない貴重な体験と、それを体得するまでの楽しくも厳しい鍛錬の道のりが、あなたとライバルをより一層 "強いライダー" へと成長させます。

2.低い速度域と軽量なマシンは怪我と破損のリスクを最小限に抑えます。

1周が150m程度のオーバルトラックでは、おそらく通常は二速か三速かの固定ギアーで周回することになりますが、どんなに出ても最高速度は60km/hくらいです。これが400m (1/4マイル) 級であれば、ターン進入速度は100km/hに近づき、同じ一回の転倒でも受傷のリスクは大きく高まります。

ダートトラックライディングの単純転倒で、まず怪我をしやすい箇所は左ヒザ・ヒジなどの関節部。転んで打って、捻ったりすりむいたり。さらに未然にしっかりと防御したいのは首回りと頭部。必要十分以上のプロテクションギアーをまずはご用意ください。

大丈夫、転んでますがヒジ・ヒザ・上半身と首もとにはプロテクターを完備。起き上がって再始動しましょう!
撮影: FEVHOTS

ジェット型ヘルメットは映画 "ON ANY SUNDAY" みたいで大変ノスタルジックな雰囲気ですが、現代におけるこの種目の転倒リスクに見合ったプロテクションギアーとは言えません。転ばぬ先の杖。前走者のルーストを身体前面に盛大に浴びる機会が多いこのスポーツでは、目を保護するためのシールドやゴーグルを備えた、オン/オフロードいずれかのタイプのフルフェイスヘルメットを用意するのも必須条件です。

100kg少々の軽量なマシンは、単独転倒によって大破損をすることもなかなかありません。ありがちなのは人間の身体とおなじく各突端部、クラッチレバー・ハンドルバー・ステップなどの曲がりや折れなど。いくらかのスペアパーツを用意しておけばそうそう簡単には走行不能に陥ることなく、少しの修理でそのままいちにち遊べるはずです。

3.比較的少ない予算でスタートすることのできるカテゴリー、ではあります。

15年以上前ですが、筆者がこの競技を始めたとき、最初に所有した "ダートトラックレース用コンペティションマシン" は、3万円で譲ってもらったポンコツ230cc・ストリートで事故歴ありの個体。競技に使う "スポーツ用品" として不要なものは、潔くすべて取り外して処分した記憶があります。

それ以来、マシンにはレースに参加するため戦闘力を高めようと様々な変更を加え、必要に応じてお金もかけましたが、技術の向上は精神論のみによってもたらされるものではないと痛感する場面が何度もありました。「正しい道具でヨチヨチと」で良いのです。道具を使うスポーツであるダートトラックレーシングには、選択を誤ると大きな遠回りとなってしまう、いくつもの岐路があります。

・先々の発展性がある正しいベース車両を手に入れること (できればなるべく安価で)
・スポーツするうえで不要なものに意味もなく固執しない (断捨離!)
・スポーツするうえで必要な (と例えば上級者がアドバイスする) ものは積極的に取り入れる

他のレースカテゴリーや、モーターサイクル遊びに比べ、少ない予算でスタートできるのは間違いありませんが、この種目に没頭していく過程で道具の善し悪しによって "超えられない壁" が現れる場面もおそらくあるでしょう。ない袖は振れませんが、闇雲にお金をケチることはスポーツするうえで美徳でもなんでもありません。身体の安全も、技術の向上も、ある程度は予算次第で手に入ります。

4.ライダー = 競技者としてのあなたの総合力が試されます。

ダートトラックのスライディングブレーキ走法は、オンロードやオフロード走行に慣れ親しんだ方にとっては、かえって新鮮で難解なものかもしれません。しかし一旦ベーシックなスキルを身に付けてしまえば、その原理原則はシンプルで、より深化・追求することが大きな喜びへと変化します。

筆者の主宰するレースシリーズFEVHOTSの軽量級クラススタートシーン。撮影: 神戸紀之

我々FEVHOTSでは定例の練習走行会 "オープンプラクティス" を、これまで毎週火曜日に川越オフロードヴィレッジで開催してきました。さらに来たる9月からは長野県南部に "オートパーククワ" が移設・新トラックとしてついにオープン。FEVHOTSとして定期的にこちらでの走行機会も提供することで、我が国のダートトラックシーンはいよいよ新たなステージへと前進していきます。

新トラックは本日のテーマにも合致した、内周およそ123m (1/13マイル) の "タイニー・ショートトラック"。こちらの詳細も近いうちにこの場でご紹介したいと思います。
ではまた金曜の "Flat Track Friday!!" でお目にかかりましょう!

撮影: FEVHOTS