白バイに追われたら一巻の終わり。
だが、たまにはこんなファンタジーがあってもいい?
ハイウェイを疾走する黒いカワサキが白バイをコケにして?
オートバイ2017年12月号別冊付録(第83巻第18号)「In the duty Spoof」(東本昌平先生作)より
©東本昌平先生・モーターマガジン社 / デジタル編集:楠雅彦@ロレンス編集部

白バイを振り切る黒い疾風・・・ゆるせねえ!

俺、スズキ。鬼の交機(交通機動隊)のアタマ張ってる。平たく言やあ、白バイ隊長ってことさ。
俺たちにかかっちゃ、どんな暴走野郎でも逃げられねえ。とっ捕まえて、切符を切ってやる。ニッポンの公道の安全は、きっちり俺たちが守ってやるのさ。

ところが最近、俺たちを振り切って逃げ切った小癪な野郎がいる。
黒くて古いカワサキだ。

高速道路で白バイに追っかけられたら・・・・たいていのバイク乗りにとっては悪夢の瞬間のはずだが・・

あの黒いカワサキは、俺たちを振り切って逃げちまいやがった。くそ、次は捕まえてやるぜ。

後ろから見る限り、カワサキの角Z。空冷エンジンの古くせえバイクのはずが、とにかく全開で命知らずの走りをしやがる。そいつは追いすがる俺たちを振り向きもせず、一気に加速して、彼方に消えちまったのよ。くそう、面目丸潰れだぜ、ぜってぇ次はとっつかまえて免停にしてやる。

再び現れた角Z!あいつだっ!

あの野郎が現れたのはそれからすぐだった。
高速脇にバイクを止めて部下ととりとめのない立ち話をしていたときだった。またもや法外な速度でぶっ飛んでいく黒い影が俺たちの頭上を通り過ぎた。

アイツだっ!!

俺たちはバイクに飛び乗るとサイレンを光らせながら高速に上がってそいつを追い始めた。

あいつだ!

サイレンをファンファン鳴らしながら追いすがる!今度は捕まえてやる!

「コラッ止まらんかあ!!」

鬼のスズキの一喝を喰らわせたものの、そいつは速度を緩めない。しかし、本来性能ならこっちの方が上だ。俺たちは黒い風を追い、スピードをあげた。今日こそ絶対、文字通り白黒つけてやるぜ、絶対に捕まえてやる。

と、そのとき・・・俺たちの真横を新しい黒い風が抜けていった・・・!ええっ???

もう一台の黒い角Z・・・

古いカワサキに並びかけた時、俺は思わず驚愕のあまりに声をあげた。「ええっ!!」

相当な速度で走っている俺たち3台の真横を、別のバイクがまるで一陣の風のように駆け抜け、追い越していったのだ。

黒いヘルメットの奥でライダーはニカっと笑ったように見えた。そいつも同じ、古くて黒いカワサキだった。Mk-IIだ。

空冷ならではのゴツゴツとした重厚なサウンドが俺たちを軽々と追い越していくと、そのまま背中を見せるや否や一気に遠ざかっていく!

気を飲まれた俺たちは、そいつを必死に追ったが、そいつはどんどん俺たちを引き離し、黒い点になっていく・・・・。

どうだい、俺たちはすっかりコケじゃないか。

白黒つけるつもりが、どうやら黒星を食らっちまったらしい・・・。

あんな古いカワサキに逃げられるなんて・・。今夜は早いとこ帰って、やけ酒でも飲むしかないぜ、くそぉ。鬼の交機がよ、スズキ隊長ともあろうものがよ、ちっ・・・。
夢だ、これは夢でござるよ・・・・。