最初はバイクの方が気になった。ライダースにペコスブーツを履きこなした彼女との偶然の出会い。
同じブランドのバイクが紡いだ偶然の系につなぎとめられた若い二人のバイク乗りの、恋の始まり。
『オートバイ 2017年 4月号』特別付録『RIDE』掲載「Flapper」より

CBが運んできた、偶然の出会い

俺はCBが好きだ。CBってなにかって?
冗談はやめてくれ、HONDAのCBのことに決まっている。今の愛車はCB1100だ。昔から俺はこいつに首ったけなのさ。

そんな俺だが、ツーリング先の蕎麦屋で、一台の古いCBを見つけたのは、ちょっとした運命だったかもしれない。
HONDA CB250T、ツインのメーカーと呼ばれたホンダの70年代の傑作バイクだ。そのCBが思ってもみなかった、別の出会いを連れてきた。
蕎麦屋の暖簾をくぐって中に入り、持ち主を探すともなしに混んだ店内を見渡した俺に、ダブルのライダースにペコスブーツの若い女が「こっちあいてますよ」と声をかけたのだ。どうやら彼女がCB250Tのオーナーらしい。それが彼女との出会いだった。

©東本昌平先生・モーターマガジン社

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CBのおかげで出会った二人は、CBのトラブルで急接近する

俺と彼女は縁があったらしい。蕎麦屋では連絡先も聞かず別れたが、そのあと1ヶ月もしないうちに、今度は路肩で動かなくなったバイクと彼女を見かけたのだ。
JAFを呼んだ、という彼女は慌てもせず、悠然とタバコを燻らせていたが、このあたりはすぐにJAFがきてくれるとも限らない、俺はCBを停めて彼女のCB250Tの調子をみてやることにした。
 

少々時間はかかったものの、彼女のCBはほどなく息を吹き返した。古いバイクであるため、タンクの中にサビがたまり、予備タンクに切り替えるたびに細かいサビが流れ込んで悪さをするらしい。

いったんは直ったものの、彼女のバイクがガスが乏しくなり、リザーブコックを開けた途端にまた調子が悪くなる始末だ。
悪い時は悪いことが重なるもので、雨に振られて俺たちは往生する。

そのとき、彼女がどこかを指差して「ねェ!」と言った。

なに?と問い返した俺が彼女が指差した方向を見ると、少し遠くに山中にはちょいとふさわしくないような明るくケバいネオンが鈍く光っていた。ラブホだ。

いいのかい?と俺は遠慮がちに訊いた。それに、長く走ったおかげで疲れてもいたので、このあとに起こり得る”未来”に、どことなく不安というか戸惑いを感じていたのだ。

そんな俺の胸の内を知ってか知らずしてか、彼女は無邪気に笑って「変な気分になってきたあ?」と聞き返したのだ。

さて。あなたならこのあと、どうする?

本音で教えてほしいな。

まあ、どちらにしても、俺たちのカンケイは、ただのバイク仲間から、一歩先に進んだ。
だけど彼女はいう。「私はそんなに簡単じゃないからね!
わかってるさ、でも、とりあえず行けるとこまで行ってみようじゃないか。
俺たちに予備タンクはいらない。ただ行けるところまで、一緒に行こうぜ。同じCB仲間だしな。

だけど彼女はいう。「私はそんなに簡単じゃないからね!」
わかってるさ、でも、とりあえず行けるとこまで行ってみようじゃないか。
先に何が待っているかなんてわからないんだし。