映画「ハーダー・ゼイ・カム」で主演のジミー・クリフ

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体制に反抗する過激なレゲエ・ミュージック

レゲエ・ミュージックというと、みなさんはどんなイメージをお持ちだろうか。夏が似合うカリブ海のリゾート・ジャマイカのビーチミュージックか。はたまた、まったりとしたリズムのクラブ・サウンド。あるいは、ボブ・マーリーの「ワン・ラヴ/ピープル・ゲット・レディ」で歌われる人類愛にあふれたピースフルな音楽。どれも間違っていないが、レゲエ・ミュージックはレベル・ミュージック(社会権力に抵抗する音楽)とも言われ、社会に反抗する過激なパンク・ミュージックという側面もあわせ持っているのだ。

私がクラブDJ時代に使用していた、ジャマイカでプレスされた7inchレコードの数々

パンクロックのルーツからレゲエと出会う

駆け出しのグラフィックデザイナーだった私が、仕事のかたわらにクラブDJをやりはじめたのは1989年の頃で、東京・青山を中心としたクラブブームが到来する何年も前のことだった。はじめは何を回したらいいのかわからず、好きだったクラッシュやラモーンズといったパンクのレコードをかけていた。特に音楽に詳しいわけでもなかった私が、ひょんなことからクラブDJのまねごとを始めるようになり、人にレコードを聴かせるという必要性から、ロックをはじめとしたポピュラー音楽の深いルーツに、興味を抱きはじめるようになってゆき、レゲエと出会うこととなる。

ジャマイカのスカを代表するスカタライツの名盤「Ska Authentic」

1966年にジャマイカで誕生したレゲエ・ミュージック

レゲエはご存知のようにジャマイカで生まれた音楽だ。他のカリブ海の島々と同様に、現在ジャマイカに住んでいるのは、コロンブスがアメリカ大陸を“発見”した後に、奴隷として連れてこられたアフリカの黒人たちの末裔である。ちなみに元々住んでいた原住民は、過酷な労働やヨーロッパ人が持ち込んだ疫病で全滅している。そのアフリカをルーツにもつジャマイカの人々は、アメリカに近い島国で当時ラジオから聴こえてくるR&Bやジャズに夢中になっていた。1950年代にジャマイカにレコーディングスタジオが次々と開設されるようになると、1960年代にはジャズに近い「スカ」や、R&Bに近い「ロックステディ」という音楽を独自に生み出してゆく。そして1966年に「レゲエ」が誕生することとなる。

ブリティッシュロックに影響を与えたジャマイカからの移民

私がレゲエに興味を持ちはじめたのは、1990年あたりから東京に登場しはじめたレゲエクラブに、最先端のナイトスポットとして、感度の高い人たちが集まっていたことからだが、DJで回していたパンクロックがどうやらレゲエに影響を受けているらしいぞ、ということを知ったことも大きい。これはジャマイカがイギリスの植民地だったことから、イギリスにはジャマイカからの移民が多く住んでいて、スカやロックステディを持ち込んでいたことと、 前回ご紹介したパブロック を楽しんでいた労働者階級の人々にとって、レゲエも身近な音楽であったことが、ルーツとなっているようだ。

伝説のロックバーのマスターの一言

これはビートルズやローリングストーンズ、エリック・クラプトンといった、メジャーアーティストのヒット曲にもしばしばレゲエビートが取り入れられているし、ビートルズを生んだリバプールが港町だったことも無縁ではなかったろうなぁと思わされる。若い頃に通いまくっていた伝説のロックバー「イエロー」のアキさんは、レゲエDJとなっていた私に「オレは1979年にボブ・マーリーを中野サンプラザで見たけど、あの頃はレゲエなんて言葉はなくて、レガエなんて言ってたよ。ジャマイカから珍しいロックをやるアーティストが来日するっていうんで見に行ったんだ」と語ってくれた。このアキさんの話は私にとって衝撃的なインパクトがあって、そうかレゲエとはロックなんだと気がつかされることとなったのだ。

映画『ハーダー・ゼイ・カム』予告編

ジャマイカ初の劇場用映画「ハーダー・ゼイ・カム」

相変わらず【疾走するミュージック】は前置きが長い。ここでようやく本題の「ハーダー・ゼイ・カム」にたどり着くことができる。ハーダー・ゼイ・カムは1972年に公開されたジャマイカ初の劇場用映画だ。当時ボブ・マーリーと並び人気のあった、ミュージシャンのジミー・クリフが主演で音楽も担当している。ストーリーはミュージシャンを夢見て、田舎から首都キングストンに出てきた若者が、希望を胸に曲をレコーディングするチャンスを得るが、悪徳プロデューサーにだまされ、しだいにドラッグ・ビジネスに手を染めて、そのあげく警察官を射殺して追われる身となってしまうというものだが、おせじにも映画としての完成度は高くはない。ただ劇中ではジャマイカの人々が、貧しくとも音楽とともにたくましく生きている様が生々しく描かれ、当時のジャマイカがリアルに伝わってくる内容だ。

The Harder They Come - promo trailer

大らかなリズムに秘められたパンク魂

こちらはタイトル曲の「The Harder They Come」。レゲエの名曲は数々あるが、1980年代以降にデジタルサウンドを導入しはじめ、ダンスホールレゲエという爆発的なブームが生まれる以前の楽曲では、ボブ・マーリーの名曲たちと並びレゲエを代表する曲と言ってもいい。南国ならではの大らかなリズムでジミー・クリフが歌うのは、貧しいジャマイカで暮らす若者の希望と、白人社会に向けた反体制の叫びだった。これはまさしくロックでありパンクではないだろうか。実はボブ・マーリーの名曲たちも例外ではなく、希望や反体制をテーマにしたものが多く、ボブ・マーレーもまたレベルミュージック(社会権力に抵抗する音楽)を代表するアーティストなのだ。

とはいえ、レゲエビートはやはり夏が似合う。真夏に向かうこれからの季節。ハーダー・ゼイ・カムのジミー・クリフを気取って、反骨精神をちょっぴり胸に秘めてバイクで走り出してみようかな。もちろんゆったりとしたレゲエのビートに合わせれば、安全運転にもなるしね。