大航海時代の中盤から後期に活躍した私掠船
月刊オートバイおよびwebオートバイに掲載されている、齋藤春子さんのインタビュー記事は面白いですね! 私、毎回この連載を楽しみにしております。下のリンクは、日本を代表するプライベーターであるTSRの藤井会長&酒匂社長のインタビューの巻・・・です。ぜひご一読ください。
ところでプライベーター・・・モータースポーツではおなじみの用語と思いますが、その語源・語義をご存知の方は案外少ないのではないでしょうか? 「私的な」「民間の」を意味する英語のprivate(プライベート)に、player(参加者、選手)みたいに「private」に「er」を足して「privateer」? まぁ語源としてはおおむねその理解となりますが、この言葉は17世紀には「私掠船」(しりゃくせん)を指す専門用語として世の中に定着していくことになります。
15世紀後半から17世紀の間、大西洋を中心に欧州勢によって海洋航路が開拓され、新大陸(アメリカ)やアジア沿岸、アフリカ沿岸など世界規模の貿易網が構築された時代を「大航海時代」といいます。大航海時代は植民地獲得や、高価な貿易品をめぐって国家間の争いが頻発しましたが、強力な常備海軍を維持するのは多大なコストが必要で、私掠船は欧州各国の予算節約のアイデアから生まれた存在でもありました。

1640年、オランダ軍艦がニューポールト沖で、スペイン王室に仕えるダンケルク私掠船と交戦するシーンを描いた絵画。
en.wikipedia.org民間船である私掠船の船主はそれぞれの国から「私掠免許」が発行され、敵国の船を襲撃することの合法性を与えられました。奪った敵船の積荷は船主、船長、組員に分配されますが、国家・王室の取り分(税金、手数料)を納めることもその制度の一部となっています。まるで国家公認海賊・・・みたいな存在ですが、私掠免許というペーパーを発行するだけで敵国の通商破壊の力になってくれる私掠船は、欧州各国的にはコスパ最高!! だったわけです。
やがて英国、フランス、オランダなどが常備海軍を保有するようになり、1700年代に国家間の貿易協定や条約締結が当たり前になっていくと、私掠船は頼もしい存在から煩わしい国家間トラブルの原因になり得る存在・・・と目されるようになります。そしてクリミア戦争(1853年~1856年)の講和条約である1856年のパリ条約の付随議定書として、パリ宣言(海戦法に関する宣言)が採択。欧州主要国は私掠免許を発行しないことに合意し、私掠船は国際法の下で違法化されることになりました。
そもそも、プライベーターとは発音しなかったり・・・?
血生臭いハナシも多かった大航海時代に活躍した私掠船を指す「privateer」は、20世紀になって隆盛することになったモータースポーツの世界では、ファクトリーチーム(ワークスチーム)ではない参戦チームを指す言葉として一般化することになりました。大航海時代の歴史は、モータースポーツが盛んな欧州が築き上げたものですから、独立系チームをprivateerと称するようになったのは、彼らの感覚として自然なことだったのでしょう。
ところで日本では「プライベーター」の表記が定着してますが、英語圏の人の口から発せられるprivateerをカタカナで表記すると、「プライヴァティア」「プリバティア」というカンジになります。スペル的にはengineer(エンジニア)とかpioneer(パイオニア)が近いですが、これらは本来の発音どおり最後を「ア」と伸ばさず止めるのに、なぜプライベーターは「ター」と音を伸ばすようになったのでしょうか?

旧い軍用機ヲタクの人は、privateerを本来の発音っぽく言えるかも? こちらは米海軍が第二次世界大戦で運用していたPB4Y-2 プライヴァティアという長距離哨戒爆撃機です。
en.wikipedia.org最初に「プライベーター」という言葉を誰が使ったのか・・・は定かではないですが、日本では英語の「v音」と「b音」、そして「曖昧母音(ə)」を厳格には扱いをせず、「ヴ」ではなく「ベ」とか、「エ」や「ア」に置き換えて表記する例が少なくないです。
プライベートも本来は「プライヴァット」「プライヴァト」ですが、日本では戦前から発音のしやすさもあってか「プライベート」の表記が定着しつつあり、戦後には完全に定着することになりました(プライベート ルーム、プライベート サロンなどなど・・・)。
あくまで推察ですが・・・すでに日本に定着していた「プライベート」に「er」がくっついているから(本当はeer)、「プライベート+人」みたいなイメージで「プライベーター」と発音されるようになったのでしょう。
余談(蛇足?)ですが・・・軍の階級の「private」は?

1998年のスティーヴン・スピルバーグ監督作品、「Saving Private Ryan」(邦題:プライベート・ライアン)のポスター。
en.wikipedia.orgモータースポーツと兼任? で軍ヲタやっている方の中には、「では階級のprivateはどういう意味?」と疑問に思う方もいるかもしれません? そもそも英語のprivateはラテン語のprivatus(公的でない、個人の)に由来するもので、公から切り離された、を意味します。
ですのでofficer(将校)=公的権限・指揮権を持つ・・・ではない、それらの権限から切り離された下級兵士はprivate(兵卒)となるわけです。そして語意としては公から切り離されている・・・なので、privateは「私的」の意味でも使われる英語だったりもするわけですね。

私宮﨑が推してるプライベートチームは、全日本ロードレース選手権で活躍する「Astemo Pro Honda SI Racing」です! 仕事で伊藤真一監督にお世話になっているから・・・でもありますが、最高峰JSB1000クラスでは市販キット車のホンダCBR1000RR-Rで、ファクトリーマシン相手に好勝負を披露したりと、推したくなる要素満載のチームなのです。みなさんも4月4日~5日のシーズン開幕戦(モビリティリゾートもてぎ)、ぜひ応援してください!
si-racing.comモータースポーツは勝者が正義なので、勝者になる機会が多いファクトリーチームの露出が各種メディアで増えるのは自然なことではあります。しかしファクトリーチームだけが、モータースポーツ文化を育んでいるわけではありません。
仕事でそこに配属されているから頑張っている・・・というノリではなく、出費と事故という高リスクを背負いつつ、モータースポーツへの愛ゆえに参戦を続けているプライベーターたちこそ、モータースポーツ文化の土台を支えてくれている存在といえるのでしょう。
・・・ということで、モータースポーツへの挑戦という大冒険に挑むプライヴァティアの皆さん・・・もといプライベーターの皆さん! 今年もご活躍を期待しています!

