「コブラ」の名前は、2つのメーカーが使っていました
近年は「ネーミング」の使用権が枯渇気味で、英語のペットネームを製品に与えることが難しくなっていますが、1960年代はまだまだ余裕? がありました。強い毒を持つ「コブラ」の名前を最初に採用したのは、1918年創業の英国のメーカー、コットンでした。
第二次世界大戦後のコットンは、社名のイニシャルである「C」を好んで車名につけていました。コタンザ、コサック、クーガー、コンクエスト・・・同様に、コットンはスクランブラーモデルに「C」を頭文字にするコブラを1960年代にリリースしています。
コットン製品は、日本からホダカを輸入販売していたことで知られるPabatco社が米国での販売を担っていましたが、残念ながら彼の地ではヒット作とはなりませんでした。続いて米国のライダーに紹介されることになったのが、日本のスズキが生んだ「コブラ」でした。
コブラの名が与えられたのは、スズキ初の大型スポーツ車であるT500でした。1968年最初期型のT500は500ccであることと5速を採用することをアピールするために、「ファイブ」というペットネームを使いました。そして走安性を向上させるためにホイールベースを延長した改良型から、スズキは「チャージャー」というペットネームも使いますが、これは4輪のダッジからクレームがつけられて、すぐに使用されなくなります。
そして「コブラ」というペットネームが改良型T500に使われるようになるものの、今度は当時「コブラ」の商標を買い取っていたフォードがスズキに異議を唱えたため、1969年型以降のT500は「タイタン」にペットネームをまたまた変更することになりました(ちなみに英国ではすでに「タイタン」の商標権所有者がいたため、英市場ではこのペットネームが使われなかったそうです)。
短命に終わったスズキの初代コブラですが、2代目のコブラは1989年に水冷4気筒250ccエンジンを搭載するネイキッドスポーツとして登場しました。しかし、同系統のエンジンを搭載するネイキッドのバンディット250がロングセラーとなったのに対し、コブラはあまりセールス的には成功しませんでした。
世界的に、昔からヘビは神秘的な生き物として、畏れられてきました
そのほか国産車の「ヘビ」ネタとしては、カワサキのF4サイドワインダーがあります。国産トレールの名機、ヤマハDT-1と同時期に作られたデュアルパーパス車ですが、輸出専用車ということもあり日本ではあまりなじみのないモデルともいえます。
英国御三家のBSA、トライアンフ、ノートンに比べるとマイナーではありますが、単気筒のスポーツモデルでマン島TTやグランプリで活躍したベロセットも、ヘビにちなんだネーミングを持つモデルをラインアップしていたことが、クラシック英車ファンの間では知られています。
先述のコットンが「C」からはじまる車名にこだわったように、第二次世界大戦後のベロセットはバイセロイ、バリアントと「V」頭文字の車名を採用しましたが、ヘビやサソリなどの「毒」を意味する「ベノム」とマムシなどの毒蛇を意味する「バイパー」も、その法則に従ったものです。
さかのぼること第二次世界大戦前、1930年より英国のラッジは「パイソン」(大蛇)という高性能エンジンを、英国および欧州の2輪メーカー30社以上に供給していました。
1980年代のホンダRFVCよりはるか前・・・1930年代に放射4バルブ機構を採用する単気筒ロードレーサーで数々の国際イベントで活躍したラッジは、この放射4バルブ機構を含む異なる排気量のパイソン単気筒エンジンを、顧客である英国や欧州のメーカーに供給していました。
そして完成車のハナシではありませんが、1902年に英バーミンガムの地で創業した古豪メーカーのアリエルも、エンブレムにヘビを描いていたりします。
ロッド(棒、杖)に1匹、または2匹のサーペントが絡む図は、西洋の紋章で多く使われていますが、アリエルもそれを強く意識してこのエンブレムを採用したのだと思われます。旧約聖書のエデンの園の蛇、ギリシャ神話のアスクレピオスの杖に絡むヘビ・・・など、ヘビは古来から世界中の神話に数多く登場しており、多くの人から神秘的な生き物と見られてきました。
毒で人を殺すこともあることから「死」の象徴ともされるヘビは、縁起的にはあまりモーターサイクルに絡めるのは好ましくないと思う人もいるでしょう。しかし一方でヘビは「幸運」や「再生」の象徴ともされており、その生命力の強さが紀元前の昔から多くの人々に畏敬の念を抱かせていました。
上述の英語名のネーミング枯渇問題もあるので、今後ヘビ由来の車名を持つモデルが登場する機会は少ないかもしれません。ここはひとつ? 車名に和名を採用することが多いスズキに奮起していただき、「スズキ 大蛇(水冷6気筒2,025cc)」を企画していただきましょう!(あ、光岡自動車との間で訴訟沙汰になるか?)。