※過去のSBMC関連記事は、下記リンクからご参照ください。
製作メーカー、スペックは残念ながら今のところ不明です
2021年9月にホンダ、KTM、ピアッジオ、ヤマハの4メーカーによって発足したコンソーシアムであるSBMCは、現在39企業・団体等にまで参画メンバーを増やしています。2022年のSBMCの活動は、主にメンバーたちで交換式バッテリーシステムの統一技術仕様を策定することでした。
その過程で、選ばれた「2つのサプライヤー」によってバッテリープロトタイプの開発が進んだとSBMCはプレスリリース内で説明しています。そしてプロトタイプ開発の第1段階の主目的は、バッテリーの仕様検証と、仕様を洗練させることにあるとも説明しています。
残念ながら、公開されたプロトタイプのスペックについては明らかにされていませんが、グリップ部のサイズ感から横幅がどれくらいかはイメージできます。そして横幅に対して高さがある、細長い形状であることもわかります。現在、市場での普及が進んでいる台湾のGogoroやアイオネックス(キムコ)の交換式バッテリー、そしてホンダ製の「Honda Mobile Power Pack e:」(以下HMPPe:)よりも長く見え、容量が大きそうな印象を受けます。
またスペック同様、「2つのサプライヤー」についてもその名は明かされてはいません。ただ現在のSBMCのメンバー構成から想像するに、そのうちの1つはフランスのフォーシーパワー社であると思われます。2007年設立の同社は今年9月28日、日本支社のフォーシーパワージャパン合同会社の設立、そしてカワサキの2輪EV向けバッテリー供給を発表し、業界の話題となった企業です。
39のSBMCメンバーすべての、利害関係を調整する仕様策定の難しさ
フォーシーパワーは現在SBMCで、ホンダ、ヤマハ、ピアッジオとともに、4つのコアメンバーを構成しています。設立時からSBMCの動向を注視していた人ならば、そこにチャーターメンバーでコアメンバーの1つだったKTMの名がないことに気付くでしょう。2022年までKTMは確かにコアメンバーでしたが現在KTMはコアメンバーを外れ、レギュラーメンバー28社のうちの1つになっているのです。
KTMがコアメンバーでなくなったことについて、SBMCからのアナウンスはありませんでした。なおKTMはインドの大手2輪メーカーのバジャジと、車体据え置きおよび交換式の2輪EV共同プラットフォーム開発を進めていますが、この計画とSBMCのプロトタイプ開発の方向性が合わなくなり、もしかしたらKTMはコアメンバーを辞する判断をしたのかもしれません(あくまで推測です)。
周知のとおり、国内コンソーシアムのGachaco(ガチャコ)は、ホンダ、ヤマハ、カワサキ、スズキがホンダ製HMPPe:の仕様を使っています。これら4メーカーはSBMCメンバーでもあるため、HMPPe:の仕様をそのままSBMC規格化バッテリーに採用すれば、開発や普及の進み具合から大幅なプロジェクトの前進が可能なのでは? と思ってしまいます。
しかし、先述のカワサキ ニンジャ e-1とZ e-1がフォーシーパワー製の薄型交換式バッテリーを採用したことが示すように、メーカー各社が作りたい2輪EVのすべてをHMPPe:だけでまかなえるとは考えていないのでしょう。
2030年にバッテリーの需要は現在の14倍にまで達すると予測されているため、SBMCは環境への影響を最小限に抑えるため材料調達やリサイクルなどの点で、持続可能であることを意識した交換式バッテリー規格を追求しています。一方で2輪メーカー各社は、SBMCメンバーとしての活動と並行して、自社製2輪EVに最適なバッテリーの有り様も同時に追求しているわけです。
10月11〜12日、東京で開催されたISO(国際標準化機構)の電動モペッドとモーターサイクルのワーキンググループ(ISO/TC 22/SC 38/WG )の会議に、SBMC代表者が初参加し、交換式バッテリー標準化に向けた6つの主要項目からなるプロジェクト提案を準備することが決まりました。そしてバッテリーメーカー、交換ステーションプロバイダ、そしてOEMメーカーによる実証実験が、来年から行われる予定との見込みをSBMCは発表しています。
39のSBMCメンバーすべての利害関係を調整することができる、規格化交換式バッテリーを作ることはいうまでもなく非常に難しい作業です。私たちがSBMCの努力の結実と呼べる「完成品」を見ることができるのは、だいぶ先のことになってもそれは仕方がないことなのでしょう。ISOワーキンググループの次の会議は4月16〜17日にイタリアのトリノで開催されますが、その後どのような発表がSBMCからあるのか楽しみに待ちたいと思います。