突如現れた怪獣の恐怖にパニックになる東京。自衛隊や警察が駆除にあたるものの、未知の生命体の動きをなかなか捉えることが出来ず・・・。
ヒーロー不在、未曾有の“災害”に既存・現実のの国家システムがどう反応するかを描いた、近未来SFストーリーです。

怪獣相手という非現実な戦いを描きながらも生々しく現実的な作品

本作は、基本的にシン・ゴジラが作り出した、現実の我が国の国家運営システムが、怪獣襲来という過去に例をみない超災害にどう対応するか?を描いたリアルなストーリー展開を踏襲した作品です。
シン・ゴジラと本作の相違点は、前者が基本的に政治主眼であったのに対し、こちらはタイトル通り自衛隊目線が主になっていることです。政府所属の人間たちをメインにしたことで、シン・ゴジラはどこか呑気というか、少し余裕があるように見えましたが、本作はあくまで現場に立つ人間たちの想いが露わになっており、より悲壮感が濃く漂います。つまりジョークや戯言を口にする余裕がほぼないのです。

また、シン・ゴジラはゴジラという大怪獣の存在感に説明の必要がないから、ということもあるでしょうが、その被害はビル何棟破壊したか、みたいな、わりとポップで受け入れやすい数値で表されますが、本作では何人喰われたか?という やたら生々しい数字で表現されます。
踏み潰されるのもイヤですけど、やはり喰われたくはないですよね。でも、これがこの怪獣自衛隊の特徴なんです。

万一の暴走を考えて制約が課せられている警察や自衛隊

本作では、怪獣という未知の恐怖に立ち向かう、オーバーテクノロジーなヒーローはいません。あくまで現実的に、警察と自衛隊が前面に立って対処することになります(米国なら大統領に指揮された軍隊が登場するでしょう)。
実弾1発打つだけで、めちゃくちゃ面倒な後始末を覚悟しなければならない警察や自衛隊の活動を少しでも簡便にして制限を外してあげるために、非常時専用の特措法やそれに伴う緊急事態宣言などが施行されますが、それでも様々な法的規制は存在し、正義感や使命感のみで動こうとすることは許されません。

警察や自衛隊は強力な火器を有しているがゆえに、万一の暴発暴走をさせないためにさまざまな行動上の制約を課せられています。その制約は、いくら非常時とはいえ簡単に外せない類のものです。本作では、そうした制約の範囲内でなんとか怪獣を制圧しようとする心ある人々の、精一杯の戦いを描いたものです。

誰もがブルース・ウェインなわけではない

これまでの怪獣映画やパニック映画は、ある意味匹夫の勇というか、ヒーローの個人的な正義感に基づく超法規的な判断で懲悪するストーリーが多かったわけですが、本作は現実に制定された価値観や政治的システムに基づく、法的に正しい方法によってのみ懲悪を目指すというスタイルです。

正直なところ、怪獣のような超自然的災害に対して、既存の手続きの正しい手順に従わないと動けないのはあまりにスローすぎる、独裁国家のように強いリーダーの鶴の一声で動ける方が迅速果断でいいのではないかと思う人も多いでしょう(ある意味、2020-21年の現在蔓延している新型コロナウイルスに対する思いにも似ていると思います)。

しかし、実際にはきっかけはなんであれ、強大な戦力を持つ特定の集団に 自在に動ける行動の自由や権利を渡すのはやはり相当に危険です。誰もがブルース・ウェイン(=バットマン)のように献身的かつ金持ちなのに権力に興味がないわけではないのです。

本作は、怪獣という脅威に晒される人々の命をなんとか守ろうとする純粋な人々と、それでも現実的な制約を守らなければいけないという保守的な想いのぶつかり合いの間で思い悩む、そんな作品です。

タイトルや絵柄は正直B級チックですが、そのメッセージ性は非常に重く深いものだと思います。オススメです。

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