マージナル・オペレーション(達成不可能?な作戦)とは
ゲームデザイナーの芝村 裕吏先生原作、キムラダイスケ先生 作画の戦争アクションコミック。
主人公の新田良太(通称アラタ)は、勤めていたゲーム会社の倒産によってニート化。心機一転、条件の良い転職話に飛びついたところ、それはなんと民間軍事会社(PMSC=private military and security company、複数形はPMSCs)だった⁉︎
本作の面白いところは、アラタは厳しい訓練を受けるものの、実際に銃火器を扱う訓練ではなく、オンラインで(まるでゲームのように)部隊に指示を与え、駒を動かすかのように部隊を運用する、オペレーターとして訓練されることです。
戦場の環境や不確定要素を巧みに想定し計算していく、まるでeスポーツのようなオペレーションの手法に、ゲームオタクとして非リア充的生活を送ってきていたアラタの性向はまさにドンピシャ(死語?)。アラタは類まれな優れたオペレーターとしての才能を開花させていくのです。
とはいえ、アラタがいくらゲーム感覚でオペレートしようとも、画面の向こうでは実際に人が死に、家屋が破壊されているのです。その事実を実感したとき、アラタは改めて戦慄と恐怖を覚えるのですが、あるとき自分が指揮していたのが年端もいかぬ少年少女たちであり、さらに彼らは戦争をするしか生きていく方法がないという現実を思い知らされます。
そして彼はある決心をします。戦うことでしか存在意義を見出せない少年兵たちと徹底的に付き合っていこう。そしていつか彼らに真の自由を与えてやろうと。
アラタはPMSCを辞し、フリーの傭兵集団として少年兵たちを率いていくこととなります。
どんなに困難であっても、いつか彼らに血生臭い戦闘とは無縁の平和な生活を与えることを夢見て、アラタは己れの矛盾と戦いながら生きていくことを選ぶのです。
マージナル・オペレーション(限界ギリギリ作戦)。アラタの達成不可能と思える作戦行動が始まりました。
悪名を甘んじて受けて生きる強さ
本作は、元ニートで三十路を迎えた1人の青年が、自分の中に潜む恐るべき軍事的才能の存在を知らされるところから始まります。
誰にも必要とされることのなかった1人の男が、戦争という極限状態での優れた才能を見出されることになるなんて、ある意味ファンタジーというほかありませんが、彼はその才能をそのまま換金することができるほど、リアルスティックな性格ではありませんでした。むしろ、前述したように、戦うことでしか居場所を作れない、子供たちをなんとか救おうという思いに突き動かされ、己れの才能をその実現に使おうと決意するところが実にヒロイックです。
本作は、アラタと少年兵たちの邂逅を描いた中央アジア編、ひとときの休暇のはずが事件に巻き込まれていく日本編、戦争に巻き込まれていく子供達を救うために少年兵を使わざるを得ない矛盾を改めて突きつけられるタイ編、そして絶望的な戦局のなかで新たなる希望を見出していくミャンマー編(最終章)、と4部構成になっています。
アラタは少年兵を使う傭兵“子供使い”という異名を受けて、裏の世界での有名人になっていきますが、反面 子供を使って戦争をする極悪人という罵りに甘んじることにもなります。
世界中を敵に回そうが、子供達を守る。
他人になんと思われようとも構わない、自分自身の信念に生きる。
本作はそんな強い意志を持った男の話です。