2020年度、唯一のホンダユーザーだったPTR
SSP=世界スーパースポーツ選手権は1999年から世界選手権に格上げされた、比較的新しいレースシリーズです。量産公道車のスーパースポーツ(〜600cc4気筒、〜675cc3気筒、〜750cc2気筒)をベースとした競技車両が使われ、若手ライダー中心のステップアップのためのクラス的な位置付けで今まで発展してきました。
2020年シーズンは、ヤマハ、カワサキ、MVアグスタ、そしてホンダの4メーカーのマシンが参戦し、開幕9連勝!! を含む12勝を記録した、イタリアのアンドレア・ロカテリ(ヤマハ)がタイトルを獲得しました。そしてマニュファクチャラーズタイトルは、1位がヤマハで365点、2位がカワサキで268点、3位がMVアグスタで140点、4位がホンダで・・・わずか25点でした。
なぜホンダがこんなにポイントが少ないのかというと・・・CBR600Fの時代を含み、今まで9度チャンピオンマシンになったホンダCBR600RRのユーザーが、今年はわずか1チームしかなかったからです。そして今年唯一ホンダ勢としてSSPに参戦したダイナボルト・ホンダを運営するPTRは、2021年からはCBR600RR以外での活動をすると、先日公表しました。
2021年型CBR600RRは、欧州、そしてアメリカでは販売されません!!
日本国内では9月25日発売の2021年型CBR600RRは、従来型をベースに電子制御スロットルやIMU、そしてウイングレット付きフェアリングを採用するなどして、性能アップを図っているのがその特徴です。121ps/14000rpmという高性能ぶりが注目される新型CBR600RRですが、環境規制対応に関してはユーロ5対応・・・ではありません。
そのため、ユーロ4レベルの環境規制対応でOKな日本やオーストラリアを含むアジア圏では販売することができますが、2021年型のホンダCBR600RRはアメリカや欧州では販売されることはありません。欧州では販売されない・・・ということが、PTRが2020年限りでホンダユーザーを止めるということに大きく影響することになりました。
もっとも、PTRの本拠である英国では2017年にはすでに、CBR600RRは販売されなくなっていました。SBK=世界スーパーバイク選手権用のリッタースーパースポーツと同じくらい開発コスト・労力を要する600ccスーパースポーツを、公道用量産車に必要な環境規制対応をさせつつ、しかもリッタースーパースポーツよりもかなりお買い得な価格帯で提供する・・・ということは、メーカーにとってはかなりの負担になることは想像に難くありません。
チームのマネージャーとしては苦渋の決断でした・・・
2020年に唯一のホンダ勢としてSSPを戦ったPTRは、CBR600RRを使ったチームとしては、テン・ケイトに次いで2番目に成功したチームと言えるでしょう。
マネージャーのサイモン・バックマスター・・・昔からのロードレースファンならご記憶かと思いますが、1980年代から1990年代初頭まで世界ロードレースGP(現MotoGP)などでライダーとして活躍した人物です。不幸にも1993年のボルドール24時間(ポールリカール)での事故で左足を切断することになり、現役を退くことになったバックマスターは裏方=レースマネジメントの世界で、再びロードレース界に貢献することになります。
多くのチームで働いたバックマスターは、2008年から自身のチームであるPTRでSSPへの参戦を開始。当時ホンダ系で最も戦力的に充実していたテン・ケイトの実績にこそ及びませんが、これまで18勝と30回の表彰台を獲得。またユージン・ラバディ、サム・ロウズ、ジュール・クルーゼル、ジーノ・レイなど、今日SBK、SSP、Moto2などで活躍中のライダーの若い時代に、その成長を支えたのもPTRの功績と言えるでしょう。
CBR600RRの戦闘力がライバルに比べ見劣りするようになった近年も、PTRはホンダへの忠誠を変えることなくCBR600RRユーザーであり続けました。しかし、2021年型CBR600RRが従来型同様に欧州で販売されないこと、そしてホンダのサポートを受けることが難しいこと・・・これらの諸要素からバックマスターは、パートナーシップ継続の断念を決意することになったのです。
レーシングライダーとしても、チームマネージャーとしても、ホンダとの時間が最良の時間だったと述懐するバックマスターにとっては苦渋の決断だったでしょうが、2021年に向けてPTRは新しいプロジェクトに向けてスタートを切っているとのことです。彼らの前途に幸あることを、望みたいですね。
ホンダCBR600RRのライバル・・・2021年型のヤマハYZR-R6とカワサキZX-6Rは、日本国内ではレースベース車販売という対応で、公道を走れる国内仕様を販売しません(カワサキは636cc版は販売しています)。それは、600ccスーパースポーツファン的には残念なことかもしれません。ただ、国内だけでなく世界市場における600ccスーパースポーツの今現在の"立ち位置"を考えると、それも仕方のないことにも思えます。
ともあれ、日本のライダーたちは公道で2021年型CBR600RRを楽しむことができるのは、非常にありがたく、かつ喜ばしいことです。ガソリンを使った内燃機関を搭載する乗り物に対する規制は今後もよりシビアになっていくでしょうが、楽しめるうちに楽しまないと・・・と改めて思った次第です。