河原良雄
自他共に認めるホンダマニア・元Motor Magazine誌編集部員のフリーランスライター。
連載:ホンダ偏愛主義
新感覚で個性的なデザイン
SUVブーム真っ盛りの今、登場しても十分通用しそうなモデルがあった。それは、1998年9月にデビューしたHR-Vだ。
ロゴをベースにした3ドアハッチバックだったが、ワゴンでもCR-Vが先駆けたクロスカントリーでもない新感覚モデルだった。中でも特徴的だったのが、最低地上高190mmを実現したハイランダールック。個性的なヘッドランプと前後のオーバーフェンダーを備えていたが、直線的ラインで構成されたデザインゆえか“都会的”な感じを醸し出していた。これはそれまでの既成概念には当てはまらない特異なデザインコンセプトだったのだ。
エンジンは環境に配慮したLEV仕様で105psとしたD16A型の1.6L直4SOHCで、FFの“J”と4WDの“J4”に搭載。それぞれに5速MTとCVTのホンダマルチマチックSを組み合わせていた。これだけに留まらないところがホンダらしいところ。4WDのみに特別仕様の“JS4”を設定していた。
こちらのエンジンは同じD16AながらVTECの125psで、CVTにステアリングスイッチを付けていた。そう、当時のデュアルポンプ式4WDにCVTを組み合わせたのはHR-Vが初だった。このJS4がHR-Vの本命だった。
ボディサイズは全長3995×全幅1695×全高1590mmと今のBセグメント。当時のホンダは「SMALL IS SMART」を展開していた。私は今でもブルー地に定規を模したステッカーを持っている。その隅には「I’m HONDA」とある。スモールはホンダが得意とするところだった。
JS4に乗ったことがある。憶えているのは、視界の良さと、ヨーロッパ車っぽいしっかりした走りである。でもってコンパクトなサイズゆえ取り回しがしやすかったのも印象的だった。背は一見高そうだけど、今のクルマに比べれば低いレベル。4WDはオンデマンドだから普段はFF感覚なのがお気楽なところ。そう、HR-Vは3ドアのスタイルが示すように気負うことなく走れる都会派のマルチパーパスカーだったのである。
1999年7月には早くも5ドアを追加する。全長&ホイールベースを100mm延長して、前席フルフラットと後席リクライニングを採用。そして2001年7月にはFFで125ps版VTECを搭載したJSを追加。こうした“いいとこ取り”は当時のホンダの得意技でもあった。
そして2003年10月にはマイナーチェンジ。スポーツ系にスポイラー、ベースモデルにはオートACなど装備を充実する一方で、ひっそりと3ドアをフェードアウトさせたのだった。
Hi-rider Revolutionary Vehicleを略したHR-Vは、ヨーロッパ、中でもドイツで3ドアが大人気になる。要因はオリジナリティ溢れたスタイリングにあった。ドイツのクルマ好きの厳しい目が、その価値を認めてくれた希少なホンダ車となったのである。