河原良雄
自他共に認めるホンダマニア・元Motor Magazine誌編集部員のフリーランスライター。
連載:ホンダ偏愛主義
アヴァンシアという素敵なクルマがあったことをご存知ですか?
アヴァンシアは1999年9月、アコードベースのちょっと変わったワゴンとして登場した。前席がユニークなことにミニバンみたいにセンターウォークスルーでき、後席はスライド&リクライン可能というリムジン的要素を持ち合わせていた。
スタイリングは復活したアコードエアロデッキとも言えるロングルーフで、ホンダは“4ドアクラブデッキ”と称していた。
私はエアロデッキは大のお気に入りだっただけに、○○デッキと言われればコロンとなびいてしまう。そしてボディサイズがちょうど良かった。
全幅が1790mmとちょっと大きいだけで全長は4700mmと5ナンバー並みで、全高は1500mmと立体駐車場使用可という扱いやすさを持ち合わせていたのだ。そう、アヴァンシアはスポーティなアコードワゴン以上、ファミリー向けオデッセイ以下という、かなりなニッチ狙いのモデルだったのだ。
今のACC(アダプティブクルーズコントロール)の先駆けを20年前に実用化
エンジンは2.3Lで150psのF23A型直4と、3Lで215psのJ30A型の2タイプとオデッセイに準じたもの。前者は4速AT、後者は先進の5速ATを組み合わせていた。
基本はFFで4WDも用意。先述のウォークスルーのため今や一般的なインパネシフトをいち早く採用。さらにオプションでIHCC(インテリジェントハイウェイクルーズコントロール)も導入。ミリ波レーダーによって先行車を検知し車速や車間を制御するというシステム。
正に今のACC(アダプティブクルーズコントロール)の先駆けだった。これを20年前に実用化していたのだから「ホンダはエライ!」となるのだった。
アヴァンシアは「ミニバンは要らない、でもフツーのワゴンじゃ物足りない」という人向け。こんな展開は90年代のホンダ車に多かった気がする。こうしたホンダの姿勢が個人的に大好きなのだ。
そうこうしているうちに2001年9月にマイナーチェンジが行われる。スポイラーが備わったり、木目調センターパネルになったりと小変更だったが、“ヌーベルバーグ”なるスポーティ仕様が2.3Lに加わった。で、その中身が魅力的だった。
まずは15mmローダウンした専用サスペンション、ストラットタワーバー、リアパフォーマンスロッド、そして16インチタイヤまで備えていたのだ。ホンダが狙ったのは「ワゴンでもスポーツ」だった。同じ狙いで11月にはオデッセイの3Lに“アブソルート”なる仕様を追加。中身はアヴァンシアのヌーベルバーグに準じていた。アヴァンシア・ヌーベルバーグは思わず手を出しそうになったのだが、5速ではなく4速のATがネックになり断念。ボディカラーは大好きなミラノレッドと決めていたんだけど……。
ちなみにAvancierはフランス語で「前進する」の意。ホンダでは“アヴァンシア”と表わす。Vamosはバモス、Innovaはイノーバ、StepVanはステップバンと“va”は“バ”で表記。そう、唯一の“ヴァ”である。「まあ、どっちでもいいじゃん」と言う向きもあるだろうが、“ヴァ”の方が高級感があると思うのは“思い入れ”が強いからかもしれない。