"1大会4勝"は過去1996年と2010年に達成されています
故ウィリアム・ダンロップやガイ・マーチンなど、著名なリアルロードレーシング(公道を使ったロードレース)の名手でも1勝をあげられないくらい、TTで勝つことは難しいことです。しかし過去には1大会4勝を成し遂げたライダーが2人存在しました。
ひとりは1990年代に活躍した北アイルランドのフィリップ・マッカーレン。TT通算11勝を記録している彼は、ホンダ時代の1996年にフォーミュラ1TT、ジュニアTT、プロダクションTT、セニアTTで4勝をマークしています。
2度目の"1大会4勝"は2010年で、今も現役で活躍するイアン・ハッチンソンが成し遂げています。この時はホンダライダーだったハッチンソンは、スーパーバイクTT、スーパースポーツTTレース1およびレース2、スーパーストックTT、そしてセニアTTでも勝利し5冠!! に輝きました。
1970年代半ばまでの世界ロードレースGP時代に比べると、1990年代以降のTTは開催クラス数が増えたこともあり、このような"1大会4勝"という大記録が生まれるようになった背景があります。しかしそれを考慮しても、今まで2人しかいないという事実はいかにこの記録が偉大であるかに、疑念を挟む者はいないでしょう。
P.ヒックマンは無念のリタイア・・・D.ハリソンに勝利の女神は微笑む
マン島TTがマウンテンコースで行われるようになった1911年から続く伝統のセニアTTは、TTのなかでも最もプレミア度が高いクラスです。興味の焦点は、スーパーバイクTT、スーパースポーツTTレース2、そしてスーパーストックTTを今大会制覇したピーター・ヒックマンが、BMWに乗ってセニアTTに勝利し、3人目の"4勝"達成者になるか? でした。
6周で競われる決勝レース、ヒックマンは1周目のグレンヘレンで2位ディーン・ハリソン(カワサキ)に対し0秒385のリードをキープ。ヒックマンが記録したオープニングラップの平均時速134.28マイルはこの年のTTの最速ラップで、"4勝"への視界は良好か? と多くのファンは思ったことでしょう。
レース距離半分を消化した時点での、ヒックマンとハリソンの差は13秒486・・・そして2度目の、最後のピットストップ時には17秒683まで拡大しました。安定して速さを発揮するヒックマンでしたが、その後ドラマが待ってました・・・。
5周目の計時ポイントを通過したとき、両者の差は7秒915まで急速に縮まりました。そしてバローブリッジではわずか1秒130差に・・・。ヒックマンのチームであるスミス・レーシングBMWは、彼のマシンが冷却系に問題を抱えていることを明かしました・・・。
最高速が記録されるサルビーストレートでは、ヒックマンのBMWの最高速は時速159マイル≒255.886km/hまで低下。300km/hオーバーのポテンシャルを誇るS1000RRでのこの数字は、ヒックマン車が重大なトラブルに見舞われていることの証左でした。
そしてハリソンはヒックマンを抜き、最終的には53秒062差をつけて優勝! なんとかヒックマンは2位に踏みとどまりましたが、腐ることなくライバルのハリソンの勝利を祝福しました。美しいスポーツマンシップは、いつ見ても清々しい気持ちにさせてくれますね。
主催者とコースマーシャルたちに拍手を!
惜しくも4勝は逃しましたが、3勝をあげたヒックマンは今大会の"顔"にふさわしいでしょう。そして今週火曜日や水曜日、悪天候により決勝レースを全く消化できなかったにも関わらず、木曜日に前代未聞の決勝5レースを敢行し、TTウィーク2週間のうちの7日間で無事9つの決勝レースを終了させたオーガナイザーとマーシャルたちこそ、今大会のMVPと言えるのかもしれません(もちろん、この悪天候によるスケジュールの困難に耐えたTTファンの観覧者たちもスゴイです)。
来年度のTTは、誰がヒーローになるのか? 来年のことをいうと鬼が(以下略)、来年度のTTウィークを楽しみに待ちましょう!