若い女が近づいてこようと、オレの好みは変えようがないのさ。
オートバイ2019年5月号別冊付録(第85巻 第8号)「The Course」(東本昌平先生作)より
©東本昌平先生・モーターマガジン社 / デジタル編集:楠雅彦@ロレンス編集部
さしものカタナも雪道じゃあかたなしだけど、意地だってあるのさ。
最新のカタナが発表されたことは無論知っている。
でも、オレはこいつで十分満足している。いまさら買い換えようという気はなかった。
こんだけ雪が積もってしまえば、新しかろうが古かろうがまともに走れやしないしな(苦笑。
それでもオレがカタナで雪の中で悪戦苦闘しているのは、2日前に知り合った女に対する意地のようなもののせいかもしれなかった。
寒い中、汗をかきまくって息を切らせ切ってカタナを少しずつ前進させていたオレが、もはや押して歩くしかないと覚悟を決めかけた時、後ろからその女の車が近づいてきた。
型遅れのBMWの運転席の窓を開けると、女は言った。「乗っていきなョ、駅まで送っていってあげるわョ」
2日前、ホテル銀驊荘(ぎんかそう)・・・
オレはカタナ、女は車でのひとり旅だった。
たまたま泊まり合わせたホテルで出会って、言葉を交わすようになった、ただそれだけだったが、妙にその若い女はオレにからんでくる。
「オジサン、私のこと抱きたいんでしょ⁉️」とツインテールにショートパンツという出で立ちの女はオレを見下したように言う。「エッチしたいんでしょ⁉️ スケベそうな顔してるもん!」
冗談じゃない、オレは心の中で舌打ちをした。お前なんかオレのタイプじゃない。好みじゃないのさ。「どうした。男に捨てられたのか?」
オレの視線の先には雪が積もり始めたカタナがいた。
そしていま。
カタナのエンジンを切って押し始めたオレの横で、女はしつこく呼んでくる。「ねえ!オジサンったらァ‼️」
やや上り坂になってきた雪道にうんざりしながらオレは迷っていた。このまま黙って押し続けるか、暖かい車内に潜り込んで次の展開に挑むか・・・?
さて。このままどこまで押して行ったらいいやら・・・とりあえず女の誘いに乗るか?それとも
あなたならどうする?
オレの選択は・・・・まあ、どっちでもいいか。
どっちにしても、オレの好みは変わらない。好きなものは好きだし、好きじゃないものは好きじゃないんだ。
新しいカタナが出たことも知っているが、オレはこいつがいいのさ。