1年に100本以上の映画を鑑賞する筆者の映画評。今回は、殺されたCIAエージェントの記憶を移植された死刑囚が、無政府主義者のテロリストとの対決を余儀なくされるサスペンスアクション『クリミナル 2人の記憶を持つ男』。主役のケヴィン・コスナーに加えて、ゲイリー・オールドマン、トミー・リー・ジョーンズ、ガル・ガドット、ライアン・レイノルズと、世界的スターをこれでもかと言わんばかりに集めた、隠れた豪華作品だ。
若干複雑なストーリー
世界中の米軍の兵器を自由自在に起動させることができる恐るべきプログラムを開発した天才ハッカー、ダッチマン。彼のプログラムを巡って、テロリストとCIAが激しく暗闘を繰り広げる。
そんな中、CIAエージェントのビル・ポープ(ライアン・レイノルズ)はロンドンに潜んでいたダッチマンとの接触に成功するが、冷酷無比なテロリスト ハイムダール(ジョルディ・モーラ)によって殺害されてしまい、ダッチマンの居場所を知る手がかりが消えてしまう。
ビルの記憶を取り戻すためにCIAロンドン支局の支局長クウェイカー(ゲイリー・オールドマン)は、人の脳から別人の脳へと記憶を移植する技術を研究していた脳外科医フランクス(トミー・リー・ジョーンズ)に協力を依頼し、米国で死刑を待っていた囚人ジェリコ(ケヴィン・コスナー)の脳へビルの記憶を移植することを試みる。ジェリコは幼少時に受けた父親からの虐待の影響で脳の一部が破損し、他人の記憶を植え付けるための”余白(スペース)”が存在していて、移植先として理想的な状態だったのだ。
一時は移植に失敗したと思われたジェリコは不用品として抹殺されそうなところを逃げ出すことに成功するが、その後徐々にビルの記憶がフラッシュバックのように脳内に蘇り始める・・。逃亡資金を得るためにロンドンのビルの自宅に押し入ってみたものの、ビルの妻ジル(ガル・ガドット)や娘のエマの姿を見たことでさらに記憶が蘇り、ビルの意識に徐々に性格的にも影響を受け始めるのだった・・・・。果たしてジェリコはダッチマンの行方を思い出すことができるのか。そして、テロを食い止め、ビルの家族を、世界中の平和を守ることはできるのか?
2人の記憶を持つことで混乱しつつも、愛情や正義感に目覚め始める元死刑囚と、世界中の政府を転覆させようと目論むテロリスト、そしてテロを防ぐためにあらゆる手段を講じようとするCIAの三つ巴の戦いをスタイリッシュに描く、新感覚のスパイアクションムービー。
眼福を感じるに十分なキャスト
本作は2016年制作。今見ると、「デッドプール」シリーズで大ブレイクしたライアン・レイノルズや「ワンダーウーマン」のガル・ガドットが、ケヴィン・コスナーを引き立てる役として登場していることに違和感というか、もったいなさを感じてしまうほどの豪華さだ。しかもゲイリー・オールドマンやトミー・リー・ジョーンズといった大御所も脇を固めている。
前述のように、本作は単なるスパイアクションというよりも、記憶の移植というSF的なアクセントが入ることで、やや複雑な展開の話になっている。脳の異常によって人間的な感情を持たず、常態的に冷酷な暴力をふるえるジェリコが、正義感に溢れるCIAエージェントの記憶の影響から徐々に他人への思いやりや愛情を覚えていく様はなかなかの見どころなのだが、全体で見ると、やはりあまりにも豪華な配役に目が向く。
珍しくゲスな悪人ぶりを嬉々として演じているケヴィン・コスナーの熱演もいい感じだが、のちに(英国首相として、あるいはスーパーヒーローとして)世界を救うことになる大スターを脇役で使っている、という点が、本作を観るにたる最大のポイントということになるかもしれない・・。