幾つになっても恋していたい。そんな大人のファンタジーはステンドグラスのように煌めいて?
オートバイ2019年3月号別冊付録(第85巻 第5号)「The Lost and Found」(東本昌平先生作)より
©東本昌平先生・モーターマガジン社 / デジタル編集:楠雅彦@ロレンス編集部
愛しの女性にプレゼントしたくて、制作に励む男
私はタキザワ。67歳だ。
定年後にはじめた趣味がこうじて、いまではビーチグラスでランプシェードを作りお店に卸している。
ビーチグラス(英: beach glass)とは、海岸や大きな湖の湖畔で見付かるガラス片のことである。波に揉まれて角の取れた小片となり、曇りガラスのような風合いを呈する
だが、今日作っている作品は、注文を受けたものではない。最近私の心をざわつかせる一人の女性のために作っている。
彼女の名はテルヨ。私より10は下だろうと思う。私が制作したランプシェードを納めている店の店主であり、私のステンドグラスの師匠だ。
年甲斐もなく彼女にときめいたものの、生来不器用な私は気の利いた告白を用意できるわけでもない。乏しいボキャブラリーから振り絞るよりも、心を込めて制作するランプシェードの輝きで彼女の笑顔をせしめようという魂胆なのだ。
ある程度仕上がってきたランプシェードだったが、完成間近で私の手はピタリと止まる。
赤だ。赤が欲しい。
私はそう思うと矢も盾もたまらず、海岸へとCBを走らせた。CB750誕生から50年。現在のCBシリーズのフラッグシップ、CB1000Rだ。
赤だ。愛するCBのタンクと同じ、赤が欲しいんだ。それがなければ私の作品は、プレゼントは完成しない。
ほんのり輝くビーチグラスに恋心を託して
最近の海岸は、昔ほどビーチグラスは落ちていない。かわりにプラスチックが増えている。
なかなか赤いビーチグラスは見つからず、私は海岸をはしごした。
3つ目の海岸に降り立ったとき、ようやく私は一粒の赤いビーチグラスを発見した。
あった!あった!!あったぞ!
私の心は小僧のように湧き上がり歓喜のファンファーレはなかなか鳴り止まなかった。興奮を抑えながらCBにまたがると、私は帰途につく。
今夜中に彼女に届けられるかな!?いや、届けたい。届けなくてはならない。
私の心は踊る。
捨てられて、割れて、波に洗われて丸くなったビーチグラス。その輝きを彼女に届けたい。私の気持ちを届けたい。いますぐに。いますぐに。