年間100本以上の映画を鑑賞する筆者が独自視点で今からでも・今だからこそ見るべき映画を紹介。
今回は、米史上最大級の暴動<デトロイト暴動>の最中に起こった“戦慄の一夜”を描いた『デトロイト』。女性初のアカデミー賞®監督賞を受賞した『ハート・ロッカー』や『ゼロ・ダーク・サーティ』で、戦場やテロ対策の最前線などの緊迫した場面を描きだすことに定評のあるキャスリン・ビグロー監督作品だ。

米国史上最大級の黒人暴動事件<デトロイト暴動>の最中に起きたある人種差別的な事件を描いた、衝撃的な事実をベースとした作品

1963年7月にミシガン州のデトロイトで発生した米国史上最大級の暴動<デトロイト暴動>。本作は、その暴動発生から3日目の夜に起きた、人種差別的なある事件を描いている。
(死者43名、負傷者が1100名以上とされる)

デトロイトは、別名モーターシティと言われるように、全米一の自動車工業都市として発展した。当然多くの作業員が必要となり、職を求める黒人が殺到した。暴動が起きた1963年は公民権運動が激化しており、さらにこの事件の4ヶ月後の11月にはケネディ大統領暗殺事件が起きるなど、社会不安が全米を覆っていた時期である。

多数の死傷者を出したとされるこのデトロイト暴動も、黒人たちが暴走し始めたきっかけはちょっとした警察との小競り合いだとされるが、そもそも彼らの不満は一触即発の状態にまで膨らみきっていたのだった。

本作はこのデトロイト暴動の発生から収束までを描くのではなく、その最中に起きた、ある人種差別的な事件に焦点を当てている。
その事件の舞台となったのはデトロイト市内のアルジェ・モーテル。暴動発生から3日目の夜、若い黒人客で賑わうこのモーテルから銃声がしたという通報を受け、デトロイト市警やミシガン州兵が現場に殺到し、モーテルに宿泊していた若者たちに尋問を開始するが、暴動で混乱しきった状況の中で平静さを失った白人警官たちの行動はやがて常軌を逸した暴力へとヒートアップしていく・・・。

歴史の隅に追いやられた理不尽な暴力の記憶と記録

本作はちょっとしたきっかけで起きた暴動の中で、緊迫した状況に精神的に追い込まれた白人警官たちが、弱者を暴力的に追い込んでいく様を丹念に描いている。夜と闇は分け難い、というが、彼らが若い黒人客たちに向ける悪意は、激しい暴力や強奪に揺れる街の緊張感のなせるわざなのか、それとも彼らが実際に人種差別主義者で根源的に持つ黒人への憎悪の発露なのか、それはわからない。

白人警官たちはアルジェ・モーテルで発砲した(と思われる)犯人探しに躍起になるが、やがて犯人探しが目的なのか、目の前にいる黒人たちに暴行を加えることが目的なのか、自分たちにとっても曖昧になっていく。目的と方法の境目がうやむやになり、やがて行為だけが過激化していくのである。
(例えば部下を叱責していたはずの上司が、やがて怒りに酔ってしまい、その行為だけがエスカレートするというのは日常的によく見られる。それと同じだ)

本作では、このアルジェ・モーテルで起きた衝撃の一夜を丹念に描き切ることで、デトロイト暴動の本質を浮かび上がらせようとしている。暴動がおきたきっかけこそ描いているものの、暴動がどのような経緯で激化し、そして収束していくのかについてはあまり触れない。代わりに、暴動の影で起きた、白人警官たちによる若い黒人客たちへの理不尽な暴行を緻密に描き、さらにその事件がより理不尽な形で歴史の片隅へと追いやられていく様を我々に見せつけるだけである。

暴動自体は、溜まりに溜まった黒人たちの鬱憤が爆発したことで、自分たちの社会的立場の向上や地位回復といった、(仮にその手段が暴力に訴えるものであったとしても)方向性のある抗議に集結されることがなく、ただひたすら破壊と強奪に向かってしまい、単なる暴発に終わってしまった感がある。その行為そのものはなんの評価を受けるものではないし、事実デトロイトから白人層が逃げ出し、都市自体の弱体を招いてしまった。
しかし、その行為を引き起こした背景、そこまで黒人層を追い詰めてしまった社会の抑圧自体に目を向ければ、どこに非があり、何が問題だったのかは明白だ。だからこそ本作では暴動全体の是非を問うのではなく、アルジェ・モーテルでの戦慄の一夜を描き切ることで、コトの本質を浮かび上がらせようとしているのである。

画像: 1月26日(金)公開『デトロイト』日本版オリジナル第一弾予告 youtu.be

1月26日(金)公開『デトロイト』日本版オリジナル第一弾予告

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