オートバイ2019年1月号別冊付録(第85巻第2号)「BLUE BIRD ROCK」(東本昌平先生作)より
©東本昌平先生・モーターマガジン社 / デジタル編集:楠雅彦@ロレンス編集部
「スタンバイしているから早くきて!」オンナの急な呼び出しのわけとは?
俺はテツヤ。コンビニでしこたまビールを買い込んで、これから部屋呑みしようと思っていたのに、オンナからの急な誘い。それも峠をバイクで走ろうだって??もう1時だぜ。昔の族じゃねえっての。ほんとヨシノはいつだって勝手なんだ・・。
一緒に飲もう、って話なら悪くない。だってヨシノは確かにいい女だからな(金持ちのお嬢だし)。
でもこの寒い中、なんだってバイクで走り回らなきゃならないわけってことさ。だったら俺いなくてもいいじゃん、俺もビールのほうがいい。
だけどヨシノは「なにバカ言ってんの!はやくいらっしゃい!!」と怒るんだ。
もうスタンバイしてんだから、とヨシノは言うが、なんだよスタンバイって。俺はよくわからないまま、やむなくヨシノの指定した場所に車で出かけた。
待ち合わせ場所でオンナと共にテツヤを待っていたバイクとは??
待ち合わせ場所に行くと、でかいトレーラーのそばで、これまたでかいリムジンが停まっていた。執事らしい品のいい老紳士がドアを開けると、憮然とした表情で座っているヨシノがいた。
なにそれ、俺、遅いってか?
車を降りたヨシノは白い革のライディングスーツを体に纏っていた。
彼女は俺にも同じスーツを差し出すと、着るように言った。「テツヤのサイズで作らせたけど」
悪くない。確かにスーツはジャストサイズだった。
だが、俺の心を一瞬で鷲掴みしたのは、リムジンのそばに停められていた2台のバイクだった。
俺が来るのをジッと待っていたそのバイクは、あの、ホンダのとびきりスペシャルなやつだったのだ。
「なんでこのバイクが2台もあんの!?」
俺は思わず叫んじまった。
それはHONDA R213V-S。
ホンダのMotoGPマシンRC213Vに、保安部品をつけ、ストリートスポーツとしての要件を付け加えただけ、の超ド級スーパースポーツ。こいつに乗って峠を走る??
お嬢様の気まぐれにしちゃあ、ちょっと度がすぎてるんじゃないの?1台2000万円以上のスーパーマシンだぜ??
私はね、とヨシノは言った。「極上の風になりたいの!」
そう言って走り出したヨシノの後を俺は追った。
確かに極上さ。そいつは間違いない。
一人のビールも最高なはずだったが、こいつに乗れるなら、ビールを諦める意味はあったというものさ。