連載『ホンダ偏愛主義』。自他共に認めるホンダマニア・元Motor Magazine誌編集部員でフリーランスライターの河原良雄氏が、ホンダを愛するようになった理由を、自身の経験を元に紐解きます。第25回となる今回は、「ホンダスポーツの原点、オープン2シーターFRスポーツのSシリーズとチェーン駆動に関する話」です。(デジタル編集:A Little Honda編集部)

Sシリーズはモノコック以前だったためフレームがあった。フロントに縦置きされたエンジンのアウトプットはクラッチを介して直後のトランスミッションへ。そこから短いプロペラシャフトを介して中間地点、つまりシート後方下に固定されたデファレンシャルに伝わる。で、ここからがミソ。デフからの左右のシャフトを軸にチェーンを介して後輪を駆動していたのである。その左右のチェーンケースはスイングアクスルも兼ね、サスペンションの一部を担うこととなっていた。

この画期的なシステムは本田宗一郎さんのアイデアだったと聞くが、S600、S800とパワーアップしていくにつれ、チェーン駆動の限界が見えて来るのだった。チェーンが発する音やメンテナンスの問題、加えて慣性モーメントの関係からリアに挙動の不安定さが表われてきたのだ。その結果、S800が登場してほどなくオリジナリティに富んでいたチェーン駆動を取りやめることに。

リアアクスルのセンターにデフを置くコンベンショナルなシャフトドライブを採用することとなるのだ。そして1968年のマイナーチェンジで最終豪華モデルとなるS800Mが登場し、Sシリーズは1970年7月まで生産されるのだった。

Sシリーズには先進のリアハッチを備えたクーペも含め様々なモデルが存在したが、最終モデルであるS800Mがもっとも完成度が高かったと言える。

S800以前のチェーン駆動はホンダらしさと言う面では評価できるが、今乗れば操縦性にクセがあるのは確か。

私はSシリーズは残念ながら所有したことはない。が、知り合いは今でも“S”にこだわっている。彼のチェーンドライブのS600に乗ると、黎明期のホンダの気合を感じ、半世紀前のホンダイズムを実感する。ホンダは昔っからフツーなことはやらなかったのである。

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