年間100本以上の映画を鑑賞する筆者が独自視点で今からでも・今だからこそ観るべき映画を紹介。今回の100分の1の映画は、実生活でも夫婦であるマイケル・ファスベンダーとアリシア・ヴィキャンデルが心に傷を負いながら寄り添い暮らす夫婦を演じることで話題となった『光をくれた人』。
孤島の灯台守の夫婦が、海岸に打ち付けられたボートに残された赤ん坊を救う。二度の流産で失意のどん底だった2人は、その赤ん坊を自分たちの子供として育て始めるが、やがて実の母親の存在が明らかになり・・・

あらすじ:相反する強い感情に翻弄される夫婦の嘘と真実

1918年、第一次世界大戦で戦功を立てるも心に深い傷を負ったトム・シェアボーン(マイケル・ファスベンダー)。他人とのふれあいを拒んで、オーストラリア西部のバルタジョウズ岬から160キロも離れた絶海の孤島、ヤヌス島の灯台守の仕事につく。
その後、正式採用となった彼は契約締結のためにいったんバルタジョウズの町に戻った彼は、その土地の有力者の娘イザベル(アリシア・ヴィキャンデル)と出会い、彼女を愛するようになる。

やがて結婚した2人は孤島での結婚生活を始めるが、待望の子宝には恵まれず、二度も流産を繰り返してしまう・・・。失意のどん底にあった2人だったが、ある時島に流れ着いた一隻のボートを発見したことで2人の人生は大きく変化することになる。ボートには1人の男性の遺体と、元気に泣き叫ぶ女の子の赤ん坊が乗っていたのだ。
一度は町に報告しようとしたトムだったが、これは神が与えてくれた幸運であり、この赤ん坊を自分たちの子供として育てようと懇願するイザベルに根負けし、事実を隠蔽することを決意する。

2人は赤ん坊にルーシーという名前をつけて、愛情込めて育てるが、やがて彼らの前に、赤ん坊の実の母親が現れる・・・・。彼女に真実を告げるべきだと考えるトムと、子供を手放したくないイザベルは互いに激しい葛藤の狭間で激しく動揺するが・・・。

2人が暮らす孤島の名前であるヤヌス(Janus)とは、ローマ神話に登場する二つの顔を持つ神であり、物事の始まりと終わりの双方を司ることから、1年の始まりと終わりの境界となる1月(January)の語源にもなっている。
ヤヌス島は、インド洋と南極海の二つの大洋が接する場所にあることから名付けられているが、本作のテーマである真実と嘘、愛と憎しみの葛藤、2人の母親の存在など、相反する二つの強い情念のぶつかり合いを象徴する名前となっている。

画像: 5/26(金)公開 『光をくれた人』予告編 www.youtube.com

5/26(金)公開 『光をくれた人』予告編

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絶望的な境遇に照らされた一筋の光にすがってしまうのはやむを得ないか?

世間から隔絶された孤島で暮らすトムとイザベルは、二度の流産を経て深く傷ついていたが、その前にまるで神の思し召しかのように現れた1人の美しい赤ん坊。
仕事熱心なトムはすぐに町に報告しようとするが、それを止めるイザベルにも理由がある。もちろんトムとしても赤ん坊の出現を単なる偶然とは思えない。だから彼としてはルール通りに報告したうえで、正規の手続きで養子にすればいいと考えるのだが、イザベルは医者も学校もない孤島に暮らす自分たちの申請が通るはずがない、と思う。
どこかの孤児院や施設に入れられてしまうくらいならば、自分たちが育てるべきだ、と主張するイザベルに、トムも反論ができずに、間違っていると知りつつもそれを受け入れてしまうのである。

2人のこのやりとりは実にリアルであり、自分がその立場にあったら、この夫婦と同じ判断をしてしまいそうな気がする。

絶望と憔悴の中で、ふと提示された運命的な選択を前に、彼らが下してしまった判断を責めることは誰にもできないと思う・・・。

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